本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ドキュメンタリー・エッセイ・その他

食味歳時記/獅子文六

ずいぶん昔に愛読した食味随筆で、おそらく料理好きの従弟に持って行かれて久しく呼んでいなかった。30年ぶりくらいの再読だが、中身は案外覚えているものだ。雑誌での1年間の連載なので一ヶ月ごとの食味を綴っていったものだが、食に対する関心が強く、知識…

路地の子/上原善弘

同和地域の出身である著者はこれまでも被差別をテーマにした著作を何冊も出版してきているが、本書では食肉業者として一代で財を築いた父親の半生を克明に描いている。上原龍造は松原市の路地(自らの故郷である被差別地域のことを中上健次がそう呼んでいた…

ちんちん電車/獅子文六

かつて数冊読んだことのある獅子文六が再評価されているらしいので、読んでみようと思い立ち、まず未読の本書から。タイトルからして古き良き東京が読めそうだ。50年ほど前はまだ都心のあちこちを都電が走っていたようだ。高度成長期モータリゼーションの邪…

発酵文化人類学/小倉ヒラク

仕事に遊びに邁進しているうちに体調不良となり、発酵食品によって改善したという著者(デザイナー)が発酵の魅力に目覚め、発酵デザイナーを名乗り、発酵の奥深さをPRする。化粧品会社の同僚である味噌屋の娘に連れられて発酵仮面小泉武夫教授を訪ねた際、…

謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア/高野秀行

文庫化にて再掲(という名の使い回し・・・)。 紛争地帯ソマリアの一画で、一触即発の状態ではあるにしても奇跡的に和平と民主主義を維持しているソマリランドの実態を探り、更に紛争地であるプントランドや南部ソマリアを取材したルポ。部族紛争とかか難民…

富士日記(上・中・下)/武田百合子

富士山麓の鳴沢村に山荘を建てた武田泰淳一家の暮らしを百合子夫人が綴る日記文学。この人の本は前にも何冊か読んでおり、50年前に運転免許を取って夫を横に乗せていたのだからかなりの女傑であることは知っていたが、本書ではさらにその女傑っぷりが明らか…

藝人春秋/水道橋博士

文筆でも知られ、芸人ルポライターを自認する水道橋博士がよく知る芸能人(狭義の芸人のみにあらず)の人となりを綴った芸能エッセイ。お茶目でマッチョなアスリートの面を持つ草野仁とか(著者にとって「たけしとひとし」は芸能界の父らしい)、狂気を発し…

虫けら様/秋山あゆ子&二日間の独り言

主に昆虫をモチーフにしたファンタジー漫画集。ガロがデビューと言うことで、シュールで不気味でコミカルでやさしい世界は確かにそれっぽい(ガロをよく知っているわけではないけれど)。昆虫がとてもリアルに描かれていたり、或いは擬人化されていたりする…

遊覧日記/武田百合子

バブル前夜の東京、或いはその他の地域(群馬のジャパンスネークセンターやら戦後すぐの東京やら)を写真家である娘(武田花)と共に経巡り、風景や人物を活写する短文の紀行エッセイ集。やや耄碌加減の老女との邂逅とその後の顛末を描いた「青山」など、掌…

週末ソウルでちょっとほっこり/下川裕治

バックパッカー紀行作家によるソウルルポ。タイトルだけ見ていると週末ごとにソウルに通うリピーター旅行者の穴場情報的な感じがするが、観光客視点ではない、もっとディープな部分にどっぷりと浸かってみる旅人の記録という印象。代表的な繁華街明洞や観光…

おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想/ロジーナ・ハリソン

本好きSNSの友人のお勧めにて。 20世紀初頭、ヨークシャー州出身の純朴な田舎娘がイギリスの子爵夫人レディ・アスターに仕えた35年間の日々を振り返る回想記。温かみのある人間観察眼とユーモラスな筆致で西洋版「家政婦は見た」を綴っている。旅行がしたい…

世界の辺境とハードボイルド室町時代/高野秀行・清水克行

辺境を旅するノンフィクション作家と中世史研究家による異色の対談集。高野には「謎の独立国家ソマリランド」という著作があるが、内紛の悲劇が襲ったソマリアと室町時代の社会状況が酷似しているという観点から接近した二人らしく、博覧強記の二人の語る内…

牛を屠る/佐川光晴

「おれのおばさん」などで注目されている作家が屠畜に携わっていた経歴を語る職歴ルポ。国大法学部卒、出版社を辞めた後の求職活動で反射的に屠畜業を希望し、埼玉の食肉工場に採用されてから10年半の顛末を語っており、普段は隠されがちな業界だし、その内…

被差別の食卓/上原善弘

「被差別のグルメ」に先立つこと10年ほど前に出版された新書ノンフィクション。本作では、自分の生まれ育った地域のソウルフードの他、アメリカ黒人、ブラジル黒人、ブルガリアやイラクのロマ、ネパールの不可触賎民を取材し、彼らの食生活について綴ってい…

被差別のグルメ/上原善弘

同和地区出身の著者が、子供の頃に慣れ親しんだ地元の食物をはじめ、アイヌ、ウィルタやニブフなどの北方少数民族、沖縄、在日コリアンと被差別地域の共同作品である焼き肉文化など、単なる「郷土料理」「おふくろの味」」ではなく、迫害される境遇から生ま…

野武士、西へ 二年間の散歩/久住昌之

文庫化にて使い回し再掲(2月に掲載したばかりですが・・・)。 散歩を大いに好む著者だが、テレビ番組やらガイドブック花盛りの散歩ブームが気に入らぬ。散歩とは無目的にほっつき歩くことではないかという訳だ。そして、下調べせず、地図もガイドも持たず…

御馳走帖/内田百けん

タイトルから連想されるような食味随筆と言うより、食べ物や嗜好にまつわる思い出などを語った随想集という感。岡山の造り酒屋のお坊ちゃん育ちで、相当に我が儘に育ったようだ。それが筆致からも窺え、食事でのマイペースを乱されることを嫌ったり、サービ…

島猫と歩く那覇スージぐゎー/仲村清司

バツイチの作家が捨てられた子猫を引き取り、愛育しながら愛猫と共に那覇の路地裏を散歩して野良猫探訪をするという、猫好きにも路地裏好きにも楽しい散策エッセイである。著者は間違って人間に生まれてしまった猫を自称しており(人間の皮を被った猫だとか…

雲のカタログ/村井昭夫、鵜山義晃

入道雲や鰯雲を眺めたり写真を撮ったりは好きだが、雲についての詳細なところは知らない。各種の雲についての科学的な解説が知りたくて読んでみた。著者は二人とも雲マニアの気象予報士である。雲には、高さの分類で巻雲(上層)、高雲(中層)、(低層)が…

空の図鑑/村井昭夫

「雲のカタログ」著者の一人による雲の写真と解説。内容は「雲のカタログ」とさほど変わらないが、季節ごとの雲の風景なども取り入れ、空の美しさを満喫させてくれる。

ときめき昆虫学/メレ山メレ子

虫マニアの会社員ブロガー・エッセイストが、好奇心の赴くままに昆虫についてユーモラスに綴ったエッセイである。何しろその行動力と好奇心が楽しい。蝶を呼んで産卵させるためにベランダに柑橘類の鉢植えを置き、イモムシの羽化を楽しむ(イモムシレストラ…

エストニア紀行/梨木香歩

野鳥好きの著者が野生のコウノトリ観察のために訪ねたエストニア旅行記。北欧東欧に位置する小国の常で近隣の大国に支配された恨みを残しつつ、豊かな自然とそこに暮らす魂の美しい人々を描いている。正直なところ、旅行記などでいくら風景を美しく描写され…

台湾の歓び/四方田犬彦 

映画史家(映画評論家ではなく、映画史という学問の研究者であろう)の四方田犬彦が、2013年〜2014年に客員教授として滞在した台湾について様々な角度から綴った随筆集。旅行記や紀行随筆と言うには深遠すぎて、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズをもっと…

タモリ論/樋口毅宏

「笑っていいとも!」終焉の頃に出版されたことで話題になった新書であるが、ヨルタモリも終わってしまったので読んでみた。タモリを孤独を抱えた絶望芸人と捉えてはいるものの、どこからその結論が導き出されたのか、ちょっとしたエピソードを並べているだ…

洞窟オジさん/加村一馬

10年以上前に読んだものだが、ドラマ化されたみたいで、小学館文庫の新刊広告に出ていたので再掲。 折檻のひどい親の元から13才で家出し、以来43年間、野山を放浪し続けた著者のサバイバル記録。2003年、微罪で逮捕されたのを機に文明社会に戻ってき…

サンカの真実 三角寛の虚構/筒井功

三角寛は元は朝日新聞記者で、戦前は猟奇的なサンカ小説で人気を博し、サンカ研究者としても名前を売ってサンカ研究の論文で博士号を得ているが、信憑性については疑念が持たれている。本書は民俗学を愛好するジャーナリストが三角のサンカ論文がいかに欺瞞…

わたしは菊人形バンザイ研究者/川井ゆう

本邦唯一ではないかとされる菊人形研究者である著者が菊人形について切々と語ったノンフィクション。学術書ではないのでなるべく平易な言葉で書きたいということで、まぁエッセイとノンフィクションの中間くらいのところか。江戸末期に始まり、昭和初期くら…

本を愛しすぎた男 本泥棒と古書探偵と愛書狂/アリソン・フーヴァー・バーレット

歯科待合室の雑誌書評欄に出ていて気になった、いわゆる「本の本」である。最近立て続けに古書がらみの本を読んでいるなぁ(一年近く前の話だが)。本書は、高価な古書を違法な手段で入手する男と、何度かの犯罪から警察と連携して本泥棒を特定した全米古書…

本棚探偵の冒険/喜国雅彦 

書評欄で見かけた本で、それまで人気漫画家らしい著者のことは知らなかった。本棚探偵とは他人の本棚を覗き見るのが好きということみたいだが、むしろ古本フェチの異様な生態を面白おかしく描いた「本の本」である。江戸川乱歩や横溝正史の好きな本好き少年…

コンニャク屋漂流記/星野博美 

ライターである著者が自身のルーツを探ったノンフィクション。著者の祖父は千葉県御宿の岩和田という漁村の出身である。コンニャク屋という屋号を持つ漁師の家で、大正頃、町工場の丁稚奉公のため故郷を後にし、独立して経営者となったが、故郷との縁は強く…