本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

週末ソウルでちょっとほっこり/下川裕治

バックパッカー紀行作家によるソウルルポ。タイトルだけ見ていると週末ごとにソウルに通うリピーター旅行者の穴場情報的な感じがするが、観光客視点ではない、もっとディープな部分にどっぷりと浸かってみる旅人の記録という印象。

代表的な繁華街明洞や観光地は避けて大衆食堂での食事体験とか、中華料理のジャージャー麺が韓国風に進化して国民食となったチャジャンミョンに関する考察とか(食べたかったが、訪韓当時は胃の調子が悪く断念・・・)、植民地時代の置き土産で韓国でもポピュラーになっているタクアンルポとか(キムチの三分の一の消費高だそうだ)、だんだんにソウルの町から消えていく温泉マーク(旅館〔ヨグヮン〕という、ビジネスホテルと連れ込み宿兼用のような簡易ホテル)の実態とか、結構な観光スポットにもなっているらしい日本人町とか、ガイドブックには出ていないような情報が色々あり、ソウルへ旅してきた者としては、ほほう、そういう街でもあったのかと目から鱗の感。やっぱりアジア各地を放浪してきたプロ旅人ならではだろう。

例えば、著者は日本語メニューがあるような店には近寄らぬようにしているらしいが、その理由は、伝統の食べ方を観光客に合わせて改変してしまっているからだという。サムギョプサルと冷麺を一緒に出すのは本来はあり得ず、サムギョプサルならテンジャンチゲ、冷麺は牛カルビとの相性が抜群なのだそうだが、日本人向けに、サムギョプサルと冷麺を出すような店が増えているそうだ。この組み合わせはすき焼き+卵と同じくらいな黄金律とか(笑)。

また、ガンギエイを発酵させたホンオフェという珍味は大変にアンモニア臭いそうで、そのままでは食べられたものではないそうだが(少なくとも著者には)、付け合わせで決まっている豚三枚肉と一緒に食べると美味に感じられるんだとか。料理の世界で言う出合いものって奴なのだろう。

ソウルは小高い山に囲まれた都市だが、城郭沿いに北岳山を歩き脱腸になってしまった話などは笑える(笑)。今でも軍事機密として撮影禁止の地域らしいが、かつての威圧的な兵士と違い、徴兵と思しき若い軍人の態度は至っておだやかであるとか。軍事独裁国家から民主化されたという経緯があるかもしれないが、思えば韓国は儒教社会で、年上に敬意を表さなければならないから、かつての若造と現在の著者の年齢では扱いが違うのかも、と思ったりする(笑)。

こういう情報を色々目にすると、またソウルに行きたくなってしまって困るなぁ。