本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

2005-01-01から1年間の記事一覧

纐纈城綺譚/田中芳樹 

戦前の娯楽作家・国枝史郎に「神州纐纈城」という幻の名作があることは知っていたが未読。「神州纐纈城」の結末が物足らないと、田中芳樹が自分で書いてしまったものが本書である。元々「宇治拾遺物語」にある、留学僧円仁の逸話らしい。唐の宣宗の御世、人…

絶海にあらず(上・下)/北方謙三

平安時代、平将門と呼応するように瀬戸内海で叛乱を起こした藤原純友を描く歴史長編。藤原北家の傍流に生まれた純友は、任官には興味がなく、腕を磨きながらあちらこちらを旅するような無頼の生活を送っていたが、北家の氏の長者である忠平・良平兄弟を助け…

青い空/海老沢泰久

幕末・明治初期の宗教政策に翻弄される青年を主人公にした時代小説。同時に当時の宗教政策のいい加減さを綿密に描いていて、司馬遼太郎の手法を思わせる。小説以外の情報が羅列されて、その辺やや鬱陶しいが、新しい知識を得ることが出来た。また、青年の流…

魔法飛行/加納朋子

「ななつのこ」続編。女子大生入江駒子の手紙によって謎が提示され、謎解きの返信があるという形は「ななつのこ」と同様だ。今回もあまり物騒な事件はなく、楽しく優しい世界に仕上がっているが、張り巡らされた伏線の快感と、時々挿入されるストーカー的な…

真剣―新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱/海道 龍一朗

ブログに掲載済みだが、新潮文庫の新刊に入ったので再掲。 新陰流を創始した上泉伊勢守信綱の生涯を描いた時代小説。自分的には2004年度のベスト3(順位なし)に入る作品なのだが、世間的には今ひとつ評価が低いのが惜しまれる。上州の小領主の次男として生…

一枚摺屋/城野隆

幕末の大坂、一枚摺(瓦版)屋の跡取り文太郎は、放蕩が祟って勘当されているが、文才は父親譲りで、戯作で身を立てている。目撃した米屋の打ち毀しを記事にし、それを父親が一枚摺にしたところ、ご政道批判と言うことで奉行所に引っ張られ、責め殺されてし…

ウォータースライドをのぼれ/ドン・ウィンズロウ

元ストリードキッドの減らず口叩き探偵ニール・ケアリーシリーズ第4弾。実に6年ぶりの刊行らしい。またもや義父ジョー・グレアムがトラブルを運んで来るという幕開けだ。レストランチェーンを持ち、ケーブルテレビ局で良質の家族向け番組を放送しているカ…

Y市の橋

松本竣介という画家の絵が好きだ。センチメンタルでメルヘンで、暗い抒情を漂わせる作風である。鎌倉の鎌倉県立近代美術館で作品展があり、見に行ったことがあるが、その中で「Y市の橋」という作品が記憶に残っている。Y市とは横浜市のことだが、先日来、時…

大江戸美味草紙(むまそうし)/杉浦日向子 

江戸から来た人((c)和芥子さん)が綴った江戸グルメの数々。季節ごとの食べ物川柳を引用しながら、食べ物を粗末にできなかった時代の食の喜びを情緒たっぷりに伝える楽しい本だ。現代とは違う価値観なので、目から鱗の知識の数々が面白い。 数の子やサンマ…

電子の星 池袋ウェストゲートパーク4/石田衣良

池袋とのストリートを駆け抜けるマコト(果物屋とトラブルシューターとフリーライターの兼業)の活躍を描くシリーズの4作目。陰惨な事件を追っている割りには、希望を感じさせるのは毎度のことだ。 「東口ラーメンライン」 池袋を仕切るチーマーのヘッド崇…

こんちき/諸田玲子 

あくじゃれ瓢六の続編である。反骨精神の小悪党が、意気に感じて八丁堀の冴えない同心に協力するという時代連作だ。前作は正直なところ時代小説的な情感に乏しく、評論家の北上次郎氏の評価ほど良いとは思えなかったのだが(赤川次郎のユーモアミステリーの…

スキッピング・クリスマス/ジョン・グリシャム

娘が海外ボランティア活動に身を投じてしまった会計士夫婦は、娘のいないクリスマスに耐えられず、またクリスマスにおける無駄な出費に辟易し、カリブ海クルーズに出る決意をする。クリスマスをすっぽかすこと(スキッピング・クリスマス)にしたのである。…

エンデュアランス号漂流/アルフレッド・ランシング 

第一次世界大戦の始まる頃、南極大陸横断を試みたイギリスの探検隊の航海船が流氷帯に閉じこめられ、漂流の末に氷に圧迫されて沈没、総勢28名の探検隊がいかに苦難の末に生還したかを描くドキュメンタリー。リーダーのシャクルトンは、情熱家、夢想家、や…