本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

被差別の食卓/上原善弘

「被差別のグルメ」に先立つこと10年ほど前に出版された新書ノンフィクション。本作では、自分の生まれ育った地域のソウルフードの他、アメリカ黒人、ブラジル黒人、ブルガリアイラクのロマ、ネパールの不可触賎民を取材し、彼らの食生活について綴っている。

自らの出自について自負を持っている著者は各地の被差別民に臆することなく話を聞いていおり、日本よりも更に激しい差別が残っている地域の実情については重い感じも漂うが、総じて興味深い。たとえばアメリカの国民食とも思えるフライドチキンは奴隷の食べ物であった由。主人が捨てる部位を美味く食べられるようにディープフライにしたものだそうである。また、ブラジルには逃亡奴隷の楽園「キロンボ」があるそうで、人類学などで言うところの正にアジールであり、歴史ミーハーとしては非常に関心を持つ。もちろんただのグルメルポではなく深刻なものを含むが、著者の筆致によって面白く読了できるノンフィクションである。

旺盛な好奇心で世界の被差別の食卓を巡ってきた著者にとって、被差別の取材はライフワークらしく思えるが、ノンフィクション作家は50歳で引退すると決めているらしい。歴史・稗史ミーハーの立場から著者の作品を好んでいる者としてはやや残念であるが・・・。