本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ドキュメンタリー・エッセイ・その他

アフリカにょろり旅/青山潤 

東京大学海洋研究所ウナギグループの研究者である著者が、アフリカに生息するウナギであるラビアータ種を求めてアフリカ右往左往する、汗とほこりにまみれたドタバタ紀行エッセイ。孵化しても間もないウナギの幼生を発見したという数年前のニュースは記憶に…

ヴェルヌの八十日間世界一周に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者/マシュー・グッドマン

ヴェルヌの「八十日間世界一周」が話題となった時代、自分は七十五日間で世界一周してみせると豪語し、1889年、実際に実行してみせた女性記者と時代背景を克明に描写したノンフィクション。本書の主な登場人物は二人で、先に登場するのはネリー・ブライ…

カッコいいほとけ/早川いくを  寺西晃・絵

「へんないきもの」の著者がかっこいい仏についてミーハーな視点で綴ったイラスト本。「ただひたすら、かっこいい、かっこいいと礼賛するだけの本である」と前書きにあるとおりだが、初期仏教からの変遷とか(元来シャカの教えは心の持ちようを説くものであ…

女子と鉄道/酒井順子

ちょっと前の出版なので近年の女子鉄ブームを少し先取りした感のある鉄道エッセイ。宮脇俊三の著書で鉄道に目覚めた著者だが、特にマニアという訳でもなく、乗っていれば満足らしい。乗りさえすれば誰でも平等に運んでくれるのが鉄道の素晴らしさだと語って…

落語の国の精神分析/藤山直樹

精神分析家である著者が、趣味である落語(自分で演じたりもするらしい)を精神分析的に語ったエッセイである。精神分析と落語は、分析家も落語家も己のパーソナルな部分を差し出して患者=客と向かい合うところが似ているらしい。「らくだ」では死と死体の…

トラオ 徳田虎雄 不随の病院王/青木理 

文庫化にて再掲。しかしこの時期の文庫入りってなかなかタイムリーだな。やっぱりあの事件のせいなのか? 一代で病院帝国徳州会を築き上げ、現在はALS(筋萎縮性側索硬化症=全身の筋肉が衰えて自発呼吸すら出来なくなる難病)を患いながら、目で文字盤を…

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む/角幡唯介

タイトル通り、人跡未踏地帯の探検に挑んだ記録である。ヒマラヤ沿いにあるツアンポー渓谷は、インドがイギリスの植民地だった時代に数人の探検家・プラントハンターなどが踏査しているが、激流と急峻な断崖に阻まれ、21世紀になっても未踏地帯が残っていた…

カコちゃんが語る植田正治の写真と生活/増田和子

植田正治という写真家についてはたまに美術番組で見る程度で、さほど多くは知らない。戦前から創意工夫に満ちた楽しい写真(植田調と呼ばれる)を撮っていた人で、家業の写真館は夫人に任せて自分は写真道楽にどっぷりつかっていたらしい。本書は、植田正治…

大阪アースダイバー/中沢新一

東京の歴史と地形の関わりを掘り起こし、縄文海進期の岬にあたる部分が現在の聖域になっているとしたのが「アースダイバー」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20080908/p2。その考え方を敷衍して、大阪の精神性を地形と古代史から論考したのが本書で…

人、旅に暮らす/足立倫行

30年近く前に書かれたノンフィクション。ずいぶん前から読みたいと思っていたが絶版で、図書館で見つけることが出来た。タイトルの通り、あちこちを渡り歩く稼業の人間を採り上げている。題材は、競輪選手、錦鯉の仕入れ人、スリ専門の刑事(一日中、電車…

ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い/難波功士

1961年生まれ、大阪府南部育ちでいわゆる「ヤンキー」を身近に見てきた著者が、ヤンキー的な人・モノ・コトについて、ヤンキー前史から現在のヤンキー状況はどうなっているかまでを考察した新書。自分が高校生の頃は不良のことをツッパリと呼んだし、昨…

リアスの海辺から 森は海の恋人/畠山重篤 

著者は気仙沼舞根(もうね)湾の牡蠣養殖をする漁師。海の幸のためには流の森林を豊かにすることが大事だということで「森は海の恋人」という植林活動をしている人だ。以前から著者のことは知っていたが、この本については全然知らず、たまたま図書館の棚に…

東日本大震災 石巻災害医療の全記録/石井正 

東日本大震災での被災後、医療機能の麻痺した石巻において救急医療を一手に引き受けた石巻赤十字病院の医師であり、石巻県合同救護チームのリーダーでもあった著者が、震災後6ヶ月間の苦闘を克明に記したノンフィクションである。災害救護活動も任務とする…

渡りの足跡/梨木香歩

野鳥観察を愛好する著者が、渡り鳥の観察記録と、なぜ渡るのかという根源的な問いと、旅をする人間を重ね合わせて哲学的なまでの考察を展開する野鳥エッセイ。渡り鳥とは言っても、暖かい地域を旅する南国的な鳥ではなく、オオワシ、オジロワシ、海鳥など、…

股間若衆/木下直之

男性裸体彫刻の扱われ方の変遷を、主に股間に注目しながら論考したユーモラスな美術ルポルタージュ。戦前には美術展に警察の検閲があり、局部を木の葉や布で隠されたり、特別室に置いて美術関係者のみに展覧させるなど苦労があったらしい。木の葉を付けた彫…

わたしの小さな古本屋/田中美穂

倉敷の古民家で小さな古書店「蟲文庫」を二十年ほど営む著者が、開店からの来し方や趣味について、あちこちの雑誌に掲載したものを一冊にまとめた古書エッセイ。高卒後に勤めた会社が過酷で体をこわして退職、「子どもの頃から要領が悪く、計算が苦手で、コ…

食卓の情景/池波正太郎

文士による食随筆の白眉であろう。二十代の頃、その美味そうな文章と著者のダンディズムに惹かれて何度も再読したものだが、その後紛失、最近某オフの105円コーナーで見つけ、四半世紀以上ぶりの再読となった。 下町育ちの著者にとって懐かしい味(落魄して…

裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす/たくきよしみつ

著者は原発に近い川内村に居住していた作家・技術批評のライター・ミュージシャンなどを兼業する人で、福島第一原発事故以降、いかに国や県の対処がでたらめだったか、東電や原子力政策のインチキさ、線量が低いにも関わらず避難地域に組み入れさせたがる行…

瓦礫の中から言葉を わたしの<死者へ>/辺見庸

宮城県石巻市出身の著者が、震災直後にNHKの「こころの時代」に出演し、震災を語った内容に基づいて新たに書き下ろされたもの。震災後「ぽぽぽ〜ん」に乗っ取られたテレビから流れるのは「楽しい仲間」「ごめんね」「ありがとう」「絆」などの空疎な言葉で、…

氷上の光と影/田村明子

長年フィギュアスケートを取材してきた著者が、近年のブームから十年くらい前までのフィギュアスケート周辺の話題をつぶさに紹介したノンフィクション。「ケリガン/ハーディング事件」によってアメリカ国内でフィギュアスケートが俄然注目を浴び、フィギュ…

走れ、さんてつ!

中井精也氏はBSの鉄道写真番組でよく見かける人で、ゆる鉄を標榜する鉄道写真家。ガチな鉄道写真ではなく、人だったり物だったり風景だったり猫だったり、何かしら他の事物と組み合わせてふわっとした優しい雰囲気の写真を作りだす。さんてつとは三陸鉄道の…

春を恨んだりはしない/池澤夏樹

震災後のあれこれ、原発問題などを作家の視点で考察した随想。作家が震災を語ると詩を引用したりしてどうしても文学的になってしまうのは避けがたいのかも知れないが、以前に新聞に掲載されたコラムをふくらませた「昔、原発というものがあった」が読み応え…

嘘つきアーニャの真っ赤な真実/米原万里 

ロシア語通訳・エッセイストの著者は、1964年頃、日本共産党からチェコの組織に赴任していた父親に伴い、現地の学校に在籍していたことがあるが、他の共産圏からの留学生たちと結んだ友情を振り返り、数十年後、再会のために訪ね歩いた記録である。父親が亡…

ほのエロ記/酒井順子 

一般メディアからはエロが隔絶され、ネット上には規制なしのあからさまなエロがあふれかえる昨今に対し、深夜の時間帯とは言えテレビで裸体が放送され、週刊誌にはヌードグラビアがあふれいて、親に隠れて聞く「笑福亭鶴光のオールナイトニッポン」にワクワ…

大[震災]震災 欲と仁義/荻野アンナとゲリラ隊 

作家の荻野アンナが「避難所は社会の縮図である」と見なして被災後一ヶ月くらいの避難所を取材した共同通信連載ルポ。同行した共同通信記者(河北新報に出向中)は仙台港で津波に遭遇したそうだ。この記者の言によれば、テレビ取材で涙にくれる被災者はまだ…

三陸海岸大津波/吉村昭

歴史作家の著者がかつて三陸を襲った大津波について調査し記したもの。元々ドキュメンタリー的な小説を書く人だと思っているが、本書はまさにノンフィクションに他ならない。昨年三月の東日本大震災を受けて増刷されたもので、未亡人の津村節子の意向で印税…

凍/沢木耕太郎

世界的なクライマーである山野井泰史・妙子夫妻の超絶的なサバイバルと再生を描いた山岳ノンフィクション。ヒマラヤの高峰であるギャンチュンガは、高さは8000mにわずかに及ばず、記録にこだわるクライマーからは見向きもされないが、難しいルートにこだわる…

東京するめクラブ 地球のはぐれ方/村上春樹・吉本由美・都築響一

名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、清里と言った土地を、おそらく旅の達人と思われる面々が、通俗、流行遅れ、キッチュ、昭和の香り、異界性」などをテーマに観光(敢行?)したディープな旅の記録である。独特のご当地グルメ、完全自主制作CMの美…

池袋モンパルナス/宇佐美承

戦前、池袋の貸アトリエの集落に拠った、松本竣介、靉光、丸木位里・俊夫妻、寺田政明など、反骨精神に満ちた画家たちの青春を描いたノンフィクション。20年ほど前に出版された話題作で、読もう読もうと思いつつ未読で来たが、松本竣介の巡回展が行われるの…

「お笑い」日本語革命/松本修 

著者は長年「探偵!ナイトスクープ」の制作に携わってきたプロデューサーだが、言葉に対する並々ならぬ関心を持っており、「アホとバカの境界を探してください」という番組への依頼から全国のアホバカ語の分布に関する法則を推定した「全国アホ・バカ分布考…