歯科待合室の雑誌書評欄に出ていて気になった、いわゆる「本の本」である。最近立て続けに古書がらみの本を読んでいるなぁ(一年近く前の話だが)。
本書は、高価な古書を違法な手段で入手する男と、何度かの犯罪から警察と連携して本泥棒を特定した全米古書籍商組合防犯対策室長(いわゆる古書探偵)を取材したノンフィクション、あるいはエッセイである。
著者の手元に、ある図書館から持ちだされたと思しき高価な古書が預けられており、扱いに困りつつも徐々に興味を持ち始めたのが古書への入り口である。そして、古書探偵から本泥棒の話を聞き、好奇心から取材に出かけていくと、その奇妙さに惹きこまれてしまうのでだった。
本泥棒ジョンは愛書家ではあるが、活字中毒という訳ではなく、豊かさのシンボルとして高価な古書が並ぶ本棚に憧れてを抱いており、それを金持ちや古書店が独占しているのは不公平だと考えている。そして、優雅な物腰と切れる頭脳を利用した詐欺的手口で高価な古書を入手していくのだが、どうもこの男には共感できない。単に陳列したいという理由から高価な古書を欲しがっているだけだし、盗みに対する罪悪感もない。
ただやはりこういう人間が存在することは面白いとは思う。そして、明らかに累犯者なのにあっさり保釈してしまい、また保釈中に反抗を重ねさせてしまうアメリカの司法制度もちょっと不可解。本に対する犯罪など大したことないということだろうか。ま、万引きの扱いと似たようなものかもしれない。
副題は結構大げさだが、手に汗握るスリリングなノンフィクションという訳ではない。それでも変わった理由から本を愛する男はちょっと面白かった。