本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

路地の子/上原善弘

同和地域の出身である著者はこれまでも被差別をテーマにした著作を何冊も出版してきているが、本書では食肉業者として一代で財を築いた父親の半生を克明に描いている。

上原龍造は松原市の路地(自らの故郷である被差別地域のことを中上健次がそう呼んでいたのに倣い、著者も被差別地域を路地と呼ぶ)の育ち、とば(屠場?)や食肉業者に徒弟奉公しながら技術を身に付け、やがて一本立ちの業者となる。やくざを追いかけ回したり、あるいは賭場の使いっ走りをするなど、極道にもスカウトされるような荒くれではあったが、祖母の教えで本業になることはなかった。

そして、差別されるのは金がないからだと割り切り、同和運動とは一線を画して食肉業者として利権に食い込み、ど根性で成り上がっていく。その過程で共産党やら右翼やら同和やくざや事件屋やらと渡り合ったり結託したり、いかがわしい裏の世界が克明に描かれており、何ともワクワクするような物語だ(いかがわしい世界は常に魅力的)。かつて食肉偽装事件で世間を賑わわせた人物も仮名で登場してくるが、単なる食肉業ではなく、闇の世界にも顔の利く相当な大立て者らしく描かれていた。

主人公の龍造は面白い人物ではあるが、かなり凶暴な勝手者でもあり、良き夫、良き父親ではなかったようだ。そういう父に対する愛憎も本書の一部になっている。

物語として面白すぎる感じもあり、本の紹介にあるような自伝ノンフィクションと言うよりルーツを描く私小説という感じではなかろうか。