本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア/高野秀行

文庫化にて再掲(という名の使い回し・・・)。




紛争地帯ソマリアの一画で、一触即発の状態ではあるにしても奇跡的に和平と民主主義を維持しているソマリランドの実態を探り、更に紛争地であるプントランドや南部ソマリアを取材したルポ。部族紛争とかか難民キャンプとか、悲惨というフィルターでしか報道されない現地の実態がよく分かる渾身のノンフィクションである。

紛争の根っこにあるのは氏族社会である。部族というと民族の括りのように思えるが、日本で言うところの源氏だの藤原氏だのと似たようなものらしい。更にこの中が細分化されていて、○○分家、○○分分家と、分分分分分分家くらいに分かれいて、同じ氏族の中でもいがみ合ったり、日本で言えば地縁血縁とか家の子郎党などと教科書で習った戦国時代の守護大名から地侍までの系列に似ているのかもしれない(現代で言えば○○一家○○組的なものを思わせる)。

それを日本に例えて、イサック奥州藤原氏だのダロッド平氏だのと記述し、少しでも紛争の歴史が分かるような体裁になっている。ふざけていると言えば言えるかもしれないが、分かりやすいことも確か。

そして、氏族リーダー同士の話し合いでこれまでのそれぞれの損害を精算し、曲がりなりにも民主主義と平和と武装解除を成し遂げたわけである。ソマリア人の特徴として、利にさとい、傲慢、思ったことはすべて口に出す、物事の処理が素早いという事が挙げられていて(遊牧民族ゆえのことだとか)、それがこの和平を産んだのかもしれないが、だとしたらなぜ他の地域ではなされていないのか、それはそれで複雑怪奇なやったりとったりがあるのだろう。

著者がリアル北斗の拳と例える南部ソマリアの首都モガデイショでは、外国人ジャーナリストは護衛なしでは出歩けず、常に銃声が響いているような地域だが、都としての華やかさがあり、人々の物腰もソマリランドより洗練されているそうだ(モガディショのテレビ局女性支局長ハムディの凜々しさが痛快)。紛争が経済を動かしている面があって、にぎやかな町らしい。そう言った面も応仁の乱の頃の京都と重ね合わせている。

ソマリア連邦のひとつであるプントランドは海賊を主な産業としていて、人や物資を捕獲し身代金を要求するらしい。そして政府からして仲介にあたっては手数料を稼いでいる海賊国家という位置づけなのだが、これもまた水軍が跋扈していた日本の中世を思わせる。関銭を取るか身代金をせしめるかの違いの感だ。

大量虐殺もあったような悲惨な紛争地帯であり、面白く読んでしまうのはどうかとも思うのだが、ソマリア人のたくましさ、ソマリランドのユニークさなどが顕著で、実際にヤバい地帯に足を踏み込んで著者ならではの見聞であり力作である。