本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

周縁

路地の子/上原善弘

同和地域の出身である著者はこれまでも被差別をテーマにした著作を何冊も出版してきているが、本書では食肉業者として一代で財を築いた父親の半生を克明に描いている。上原龍造は松原市の路地(自らの故郷である被差別地域のことを中上健次がそう呼んでいた…

脊梁山脈/乙川優三郎 

戦後、中国から復員した青年が自分の進む道を模索しながら木地師の系譜を探るという伝奇的な筋立ての現代物(戦後を描くのが現代物と言っていいのか分からず、虚構の世界とすればやはり時代小説ということになるのだろうか)。流浪民好きとしてはなんとも魅…

牛を屠る/佐川光晴

「おれのおばさん」などで注目されている作家が屠畜に携わっていた経歴を語る職歴ルポ。国大法学部卒、出版社を辞めた後の求職活動で反射的に屠畜業を希望し、埼玉の食肉工場に採用されてから10年半の顛末を語っており、普段は隠されがちな業界だし、その内…

被差別の食卓/上原善弘

「被差別のグルメ」に先立つこと10年ほど前に出版された新書ノンフィクション。本作では、自分の生まれ育った地域のソウルフードの他、アメリカ黒人、ブラジル黒人、ブルガリアやイラクのロマ、ネパールの不可触賎民を取材し、彼らの食生活について綴ってい…

被差別のグルメ/上原善弘

同和地区出身の著者が、子供の頃に慣れ親しんだ地元の食物をはじめ、アイヌ、ウィルタやニブフなどの北方少数民族、沖縄、在日コリアンと被差別地域の共同作品である焼き肉文化など、単なる「郷土料理」「おふくろの味」」ではなく、迫害される境遇から生ま…

サンカの真実 三角寛の虚構/筒井功

三角寛は元は朝日新聞記者で、戦前は猟奇的なサンカ小説で人気を博し、サンカ研究者としても名前を売ってサンカ研究の論文で博士号を得ているが、信憑性については疑念が持たれている。本書は民俗学を愛好するジャーナリストが三角のサンカ論文がいかに欺瞞…

わたしは菊人形バンザイ研究者/川井ゆう

本邦唯一ではないかとされる菊人形研究者である著者が菊人形について切々と語ったノンフィクション。学術書ではないのでなるべく平易な言葉で書きたいということで、まぁエッセイとノンフィクションの中間くらいのところか。江戸末期に始まり、昭和初期くら…

大阪アースダイバー/中沢新一

東京の歴史と地形の関わりを掘り起こし、縄文海進期の岬にあたる部分が現在の聖域になっているとしたのが「アースダイバー」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20080908/p2。その考え方を敷衍して、大阪の精神性を地形と古代史から論考したのが本書で…

日本の路地を旅する/上原善弘

「路地」とは、作家の故中上健次が自らの出自である和歌山県新宮市の被差別地域を名付けたもので、中上ファンにとっての聖地のようになっているらしい。おそくら過酷な歴史を背負ってきてはいるのだろうが、なんとはなしにロマンティズムの響きを感じさせた…

世界屠畜紀行/内澤旬子

角川文庫新刊。皮革製本を趣味(仕事?)とするイラストルポライターの著者が、なぜ皮革と食肉の仕事は差別されるのかという疑問から、日本を始め、韓国、バリ、インド、チェコ、沖縄、アメリカ、あるいは動物福祉(人権のように「動物の権利」を主張するよ…

東京番外地/森達也

小菅拘置所、東京タワー(フランク・ザッパが飾られている蝋人形館のマニアぶりが凄い!)、山谷、芝浦食肉市場など、東京に住む人間が普段意識を払わない、或いは敢えて黙殺しているブラックホールのような場所や地域を旅して歩いた探訪ルポ。タブーに踏み…

「気は優しくて力持ち」であれば・・・

相撲界が野球賭博騒動で揺れている(ようだ)。というより、マスコミが大騒ぎしているのか。 薬物のように深刻な社会問題となる訳でもなく、被害者がいる訳でもない。それでも、賭博組織との関わりは、私的な胴元を許さない法律と、「国技」とか「品格」とか…

日本の放浪芸/小沢昭一 

俳優で、個性的な話術が魅力の著者は放浪芸能史に対して強い関心を持っており、その方面の著作が何冊もあるが、研究者というよりマニアの感じだろうか。保存された伝統芸能には興味がないらしく、70年代に現役(金が稼げる)の放浪芸を訪ね歩いて採録した…

やくざ親分伝/猪野健治 

戦前戦後にアウトローの世界で力を発揮した親分たちの事績を綴ったルポルタージュ。やくざというと博徒=任侠と思いがちだが、境目が曖昧な神農=香具師(テキヤ)も含まれていて、戦後の復興を担った闇市を仕切る親分たちに半分くらいのページが割かれてい…

間道 見世物とテキヤの領域/坂入尚文 

東京芸大彫刻科を中退後、ジオラマや怪獣作成を仕事にしていた著者は、芸大の先輩に誘われてグロテスクな蝋人形の見世物小屋に参加し、後には飴細工のテキヤとなる。本書は見世物とテキヤの業界や旅稼業の実態を綴ったノンフィクションで、真っ当な社会の周…

放送禁止歌/森達也

ドキュメンタリー監督である著者がかつて番組で採り上げた放送禁止歌について、更に詳細に取材して記したスピンオフのノンフィクション。岡林信康の「手紙」「チューリップのアップリケ」、なぎら健壱の「悲惨な戦い」、赤い鳥の「竹田の子守唄」、つぼイノ…

日本中世に何が起きたか 都市と宗教と「資本主義」/網野善彦

鋼鉄式日記を拝読して関心を持った。この本は未読だったが、網野史学には以前から興味があるのだ。中世の非農耕・非定住の金融商工芸能宗教などに携わる人々の姿を掘り起こしてきた網野善彦だが、雑誌に寄稿したものや講演録などを編集し、網野史学を分かり…

間道 見世物とテキヤの領域/坂入尚文 

東京芸大彫刻科を中退後、ジオラマや怪獣作成を仕事にしていた著者は、芸大の先輩に誘われ、グロテスクな蝋人形の見世物小屋に参加する。後には飴細工のテキヤとなっているが、見世物とテキヤの業界や旅稼業の実態を綴ったノンフィクション。「カンドウ【間…

放送禁止歌/森達也 

ドキュメンタリー監督である著者がかつて番組で採り上げた放送禁止歌について、更に詳細に取材して記したスピンオフのノンフィクション。岡林信康の「手紙」「チューリップのアップリケ」、なぎら健壱の「悲惨な戦い」、赤い鳥の「竹田の子守唄」、つぼイノ…

異界/鳥飼否宇

那智勝浦を舞台に、ある医師一家を襲う不気味な事件の解決に南方熊楠が挑むという熊野伝奇ミステリー。おどろおどろしく生と死を豊饒に抱え込む熊野の地は元から好きな土地だし、更に異形扱いされるサンカが絡むとなればこれはもうたまらない設定だ。産科も…

アースダイバー/中沢新一

縄文時代、海は現在よりもかなり内陸まで入り込んでおり、海に突き出た半島や岬の部分に霊域があった。現在では洪積層と沖積層と区分される境目であり、ここには現在、寺社や古墳が残っているのだとする都市探訪記。皇居が東京の中心であるのも、集落の中心…

アキバという公界

ちょっと前のことですでに釈放済みになっているが、オタクの聖地で、過激(お下劣)なパフォーマンスで耳目を集めていた自称グラビアアイドルが逮捕されるというニュースがあった。確かに、アニメキャラやメイドなどのコスプレーヤーがが目立つ格好で歩行者…

「悪所」の民俗誌  色町・芝居町のトポロジー/沖浦和光

二大悪所、色町と芝居町の成り立ちを、お得意の周縁・被差別・河原者などを交えて説き起こしている。この手の「道々の者」的な話は大好きなのだが、評論家の小谷野敦は、遊女に聖性を求めるのはファンタジーであると断じているようだ。芝居の祖である出雲の…

江戸売り声百景/宮田章司

寄席で江戸の売り声を持ち芸としている著者が、江戸の売り声や浅草について語った聞き書きである。昭和40年代までは流して歩く振り売りの売り声が聞かれたそうだが、そういう生の体験があればこそ、芸としても生きてくるのだろう。啖呵売、泣き売のような…

啖呵こそ、わが稼業/語り坂田春夫 聞き書き塩野米松

香具師(テキ屋)の親分の聞き書きインタビュー。テキ屋、香具師というとお祭りの屋台というイメージがあるが、行商、見せ物、興業、縁起物の露店、占い易者と、さまざまな商売を包含していることが分かる。インチキな商品を巧みな口上で売りさばいたり、タ…

瀬戸内の民俗誌/沖浦和光

瀬戸内海の海民の子孫である著者が、古代より卑賤視されてきた海民の歴史と実情を語る。家船を始め、隆慶一郎の諸作に登場するような「道々の輩」とも重なる非定住民の世界は、とても歴史的なロマンをかき立てられる。農耕のできないような狭い土地で漁をし…