本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

エストニア紀行/梨木香歩

野鳥好きの著者が野生のコウノトリ観察のために訪ねたエストニア旅行記。北欧東欧に位置する小国の常で近隣の大国に支配された恨みを残しつつ、豊かな自然とそこに暮らす魂の美しい人々を描いている。

正直なところ、旅行記などでいくら風景を美しく描写されてもさほど感銘は受けない。感受性が鈍いのだろう。とは言いいつつ、エストニアの森の香りが立ち上ってきそうな気もしてしまう文章である。

いかに奇人変人が登場するかが旅行記の読みどころだと考えているので(旅人でも現地の人でも)、本書でも、著者の散策する森の中で美味なベリーを探してくれた美少年とか、エロ話に終始する民間療法爺さんとか、幽霊が出そうなクラシックホテルでの恐怖の一夜とか、そういう部分が面白い。著者らの到着した晩、コウノトリが一斉に旅立ってしまったというのも何か面白悲しい。

著者は「家守奇譚」「f植物園の巣穴」など、湿潤な日本の風土に即したファンタジーが得意だが、著者の自然観がそういう作品に生かされているのだなぁと思う。「祖国は地球」と、渡り鳥の心理を代弁しているのが印象的。