本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

食味歳時記/獅子文六

ずいぶん昔に愛読した食味随筆で、おそらく料理好きの従弟に持って行かれて久しく呼んでいなかった。30年ぶりくらいの再読だが、中身は案外覚えているものだ。

雑誌での1年間の連載なので一ヶ月ごとの食味を綴っていったものだが、食に対する関心が強く、知識や体験も該博だ。それだけでなく、なぜさほど美味くもない正月料理を三日間食べ続けることになったのか、という文明批評もあるし、家庭料理に中華や洋食が入ってきたような、昔ながらの味と現代の食の端境期において、季節外れの食品がまかり通るような食生活の劣化への嘆きもあるが、そこはユーモア作家のことだから、諧謔にまぶして展開している。

「何がウマいとか、好きだとかいうことは、ソッと、胸中に蔵って置けばいいので、ツベコベいうのは、道に外れてるかもしれない」と言いつつ、「しかし、商売、商売。」と続けるあたりが何ともおかしい。

季節の味を中心に語られた文章はすこぶる美味しそうだ。