本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

御馳走帖/内田百けん

タイトルから連想されるような食味随筆と言うより、食べ物や嗜好にまつわる思い出などを語った随想集という感。

岡山の造り酒屋のお坊ちゃん育ちで、相当に我が儘に育ったようだ。それが筆致からも窺え、食事でのマイペースを乱されることを嫌ったり、サービスの悪さに悪意の文章を連ねたり、或いは宮城道雄の盲目であることを冗談のネタにしてみたり(今時なら炎上するのではあるまいか)、あまりお付き合いしたいとは思わないタイプの人物だが、人付き合いが好きで、慕って集まる人間も多かったようだから、やはり魅力のある人ではあったのだろう。

獣肉は酒蔵に汚れを持ち込むということで食べさせて貰えず、親戚の家で薬食いとして食べた牛肉の美味だったこと、玄冬観桜会と称して馬肉鍋(さくら鍋)の宴を開いたこと、戦時中物資が欠乏し、酒も手に入りにくくなっていた頃(著者は相当な酒飲みらしい)、嘱託勤めしていた日本郵船の給仕(胸を悪くしていた)が何日も行列して7勺の酒を買ってきてくれた逸話など、あぁいい話だと思わせる部分もあり、やはり読ませるのである。へそまがりでユーモラスな人間像が浮かび上がってきた。

解説の平山三郎氏は「阿房列車」シリーズでお付きを勤めたヒマラヤ山系氏であろう。