本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

本棚探偵の冒険/喜国雅彦 

書評欄で見かけた本で、それまで人気漫画家らしい著者のことは知らなかった。本棚探偵とは他人の本棚を覗き見るのが好きということみたいだが、むしろ古本フェチの異様な生態を面白おかしく描いた「本の本」である。

江戸川乱歩横溝正史の好きな本好き少年だった著者は、ある日角川文庫の横溝正史シリーズが棚から消え始めたのきっかけに古本屋巡りをスタートさせ、更に大好きな戦前ミステリーの古書を求めてどっぷりと沼に浸り込んでいく。

江戸川乱歩の書庫を見せてもらえるということで狂喜乱舞し(夢野久作から献呈された「ドグラ・マグラ」などもある)、デパート古書市の客と店主の微妙な駆け引きを述懐し(貴重な本はすでに目録で予約されているし、人気本であれば予約が殺到しているのですんなり入手できるとは限らないらしい)、転居後に本を詰めた段ボール箱が手付かずの我孫子武丸邸での書棚作りを嬉々として引き受け、函欠けの古本に手製で函を作り、更には最初から函のない本にまで手製の函を施して世の中に一部しかないオリジナルを作成する。

最初は読むために集めていた古本も、単にコレクションのために版の違うものを集め始めるとか、まったく古本マニアの奇妙奇天烈ぶりはなんとも面白い。本を読んでいなければ落ち着かない活字中毒者に対し、この手の人を書痴というのかしらん。

本は読むものだと思っている自分には縁のない世界だが、本の終わりに掲載されている古書コレクターたちの座談会も含め、古本マニアの世界が垣間見えて大変に興味深い古書エッセイである。

本は文字を読むものだと思っているのであれば電子書籍で間に合いそうだが、やっぱり手に取って読むのが読書の醍醐味であるので、自分的には電子書籍はパス。しかし、長期入院とか旅行とかで大量の本は持ち歩けないなんて時には有効であろう。

一度だけ二週間程度入院したことがあるが、三十冊程度の文庫本を持ち込んで結局半分程度しか読まなかったように思う。それでも手元に本がないという事態が不安だったのだなぁ。当時は活字中毒だったので。