本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

道々流浪

美麗島紀行/乃南アサ

美麗島とは台湾のこと。台湾を訪ねながら、かの土地の歴史や風土を思索的に綴った紀行エッセイである。 台湾は、元々は中国の辺境であり、スペインやオランダが植民地にしようとしたことがあったり、日本の領土になったり、戦後は国民党が本土から逃げてきて…

四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼/上原善広

路地(同和地区のことを中上健次に倣ってそう呼んでいる)出身の著者が、四国遍路を歩きながら周辺の路地を訪ね、また、ハンセン病者や乞食など、遍路をしながら生きながらえた人々(職業遍路とか草遍路などと呼ばれる)を考察したルポ。この世の枠組みから…

ニッポン巡礼/アレックス・カー

日本在住の東洋文化研究者で地域再生にも携わる著者が、「かくれ里/白洲正子」にインスパイアされて隠れた名所を経巡った紀行随筆。写真多数。 能登や萩などの有名観光地も出てくるが、確かにさほど派手な土地には訪れておらず、地元に残る文化や歴史を静か…

面白南極料理人/西村淳

南極の越冬隊に参加した海上保安官による一年間の越冬記録。快適な昭和基地と異なり、内陸へ1000km、標高3800mのドームふじはマイナス80℃の寒風にさらされるヘビーな赴任地だが、その生活を面白おかしく綴っている。主に調理担当のようで、食べ物の描写が多…

遠い太鼓/村上春樹 

出版当時以来の再読。「ノルウェイの森」がベストセラーになる前後の3年ほど、ギリシャやイタリアの各地を転々としながら暮らした旅の記録である。中年にさしかかっている著者は抑鬱のようなものを感じているように思える。滞在した土地の人情や風俗を詳細に…

野武士、西へ 二年間の散歩/久住昌之

文庫化にて使い回し再掲(2月に掲載したばかりですが・・・)。 散歩を大いに好む著者だが、テレビ番組やらガイドブック花盛りの散歩ブームが気に入らぬ。散歩とは無目的にほっつき歩くことではないかという訳だ。そして、下調べせず、地図もガイドも持たず…

台湾の歓び/四方田犬彦 

映画史家(映画評論家ではなく、映画史という学問の研究者であろう)の四方田犬彦が、2013年〜2014年に客員教授として滞在した台湾について様々な角度から綴った随筆集。旅行記や紀行随筆と言うには深遠すぎて、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズをもっと…

洞窟オジさん/加村一馬

10年以上前に読んだものだが、ドラマ化されたみたいで、小学館文庫の新刊広告に出ていたので再掲。 折檻のひどい親の元から13才で家出し、以来43年間、野山を放浪し続けた著者のサバイバル記録。2003年、微罪で逮捕されたのを機に文明社会に戻ってき…

アフリカにょろり旅/青山潤 

東京大学海洋研究所ウナギグループの研究者である著者が、アフリカに生息するウナギであるラビアータ種を求めてアフリカ右往左往する、汗とほこりにまみれたドタバタ紀行エッセイ。孵化しても間もないウナギの幼生を発見したという数年前のニュースは記憶に…

ヴェルヌの八十日間世界一周に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者/マシュー・グッドマン

ヴェルヌの「八十日間世界一周」が話題となった時代、自分は七十五日間で世界一周してみせると豪語し、1889年、実際に実行してみせた女性記者と時代背景を克明に描写したノンフィクション。本書の主な登場人物は二人で、先に登場するのはネリー・ブライ…

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む/角幡唯介

タイトル通り、人跡未踏地帯の探検に挑んだ記録である。ヒマラヤ沿いにあるツアンポー渓谷は、インドがイギリスの植民地だった時代に数人の探検家・プラントハンターなどが踏査しているが、激流と急峻な断崖に阻まれ、21世紀になっても未踏地帯が残っていた…

東京するめクラブ 地球のはぐれ方/村上春樹・吉本由美・都築響一

名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、清里と言った土地を、おそらく旅の達人と思われる面々が、通俗、流行遅れ、キッチュ、昭和の香り、異界性」などをテーマに観光(敢行?)したディープな旅の記録である。独特のご当地グルメ、完全自主制作CMの美…

イッテQとキリマンジャロ

昨日、ツイッターで呟いたことを広げてみました。 テレビのアナログ停波以来、世界の果てまでイッテQ!を見ていなかった(二台ある地デジ対応テレビのうち一台が受信できず、映る方のテレビは母が「江」を見ているので)。両方のテレビに地デジとBSデジタ…

黄昏/いといしげさと・南伸坊

ほぼ日に掲載された対談を再編集したもの。あっちこっちの観光名所へ行きながらの対話なので何となく旅について語るんだろうと考えていたが、観光地についてほとんど触れていない。たこのうんちくについて話す権利を取り合ったり、川崎徹氏の夫人が葬式で自…

青い目をしたしゃっちょさん

トラベル東北はアメリカから帰化した山口スティーブ氏の経営する旅行会社だが、昨日は朝日新聞別冊BEにて、今朝はNHKサキドリにて採り上げられていたので、時流に乗っている会社なのかも知れない。 http://www.traveltohoku.co.jp/山口氏は東大留学後、三菱…

八十日間世界一周/ジュール・ヴェルヌ 

有名な古典作品で、映画化もされている。関係ないが映画の主題曲は旅情をかき立てるなぁ。交通が発達して離れた大陸との移動時間が短くなり始めた十九世紀末、イギリス紳士のフィリアス・フォッグは八十日間で地球一週が出来るかという無謀な賭けをする。機…

チベット旅行記/河口慧海

黄檗宗の僧侶が明治三十年代に鎖国状態のチベットに密入国し、その見聞をつぶさに綴った冒険旅行記の現代語訳抄録である。河口慧海という名前は、秘境旅行家の先達としてアウトドア旅行記などで名前を見ることがあり、なんとなくは知っていた。チベットに入…

世界一周恐怖航海記/車谷長吉

晩婚の著者は、新婚旅行の時に夫人に「本郷に家を買ってね」と言われておののき、数年間の苦闘の末に千駄木に居を構えた後、今度は「いずれ船で世界一周に連れて行ってね」と言われてまたおののく。著者自身は海外など行きたくないのだが、勝手に旅に出られ…

ボローニャ紀行/井上ひさし 

ボローニャというと、ミートソース(ボロネーズ)と絵本で有名な町というイメージしかなかったが、街全体がいかに人と文化を大事にしているか、手放しで褒めちぎっているようなボローニャ紹介の探訪記である。戦中はファシズムとナチスに抗したレジスタンス…

日本の放浪芸/小沢昭一 

俳優で、個性的な話術が魅力の著者は放浪芸能史に対して強い関心を持っており、その方面の著作が何冊もあるが、研究者というよりマニアの感じだろうか。保存された伝統芸能には興味がないらしく、70年代に現役(金が稼げる)の放浪芸を訪ね歩いて採録した…

間道 見世物とテキヤの領域/坂入尚文 

東京芸大彫刻科を中退後、ジオラマや怪獣作成を仕事にしていた著者は、芸大の先輩に誘われてグロテスクな蝋人形の見世物小屋に参加し、後には飴細工のテキヤとなる。本書は見世物とテキヤの業界や旅稼業の実態を綴ったノンフィクションで、真っ当な社会の周…

チャーリーとの旅/ジョン・スタインベック

アメリカを代表する作家の一人である著者が、老犬シャルル・ル・シアンと共に1960年のアメリカを自動車で旅した記録。変貌を遂げつつあるアメリカの現実が生々しく語られているが、老犬チャーリーの描写が場を和ませている。フランス生まれフランス育ち…

海賊モア船長の遍歴/多島斗志之

18世紀初頭のインド洋のあたりを舞台にした海賊小説である。一風変わった時代小説とも言えるだろうか。東インド会社の航海士だったジェームズ・モアは、会社からあらぬ疑いを掛けられ職を失い、新婚の妻が変死して投獄され(後に嫌疑不十分で釈放)、失意…

エンデュアランス号漂流/アルフレッド・ランシング 

第一次世界大戦の始まる頃、南極大陸横断を試みたイギリスの探検隊の航海船が流氷帯に閉じこめられ、漂流の末に氷に圧迫されて沈没、総勢28名の探検隊がいかに苦難の末に生還したかを描くドキュメンタリー。リーダーのシャクルトンは、情熱家、夢想家、や…