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サンカの真実 三角寛の虚構/筒井功

三角寛は元は朝日新聞記者で、戦前は猟奇的なサンカ小説で人気を博し、サンカ研究者としても名前を売ってサンカ研究の論文で博士号を得ているが、信憑性については疑念が持たれている。

本書は民俗学を愛好するジャーナリストが三角のサンカ論文がいかに欺瞞に満ちているかを検証しているもので、結局、ごく一部のサンカに接触してその風俗を描写していても全国各地で調査を行った形跡はなく、証拠写真のようなものもやらせだとしている。

三角寛は、サンカを、古代以来の独特の文字や文化を持つ、厳しい掟のもとに統率される秘密結社のごときものとしているらしいが、実はそういう伝奇小説の類なら大好物である。だからサンカの世界にも惹かれるのだが、その存在自体が曖昧模糊としており、サンカ研究が進むことはないのかもしれない。

定住しない流浪民に魅了される者としてはサンカも非常に魅力的な存在であるが、このロマン性で大衆を惹きつけてしまったのが三角寛なのだろう。猟奇的、扇情的な三角サンカ小説はあまり読みたいとは思わないが、五木寛之の「風の王国」は好きだった(もちろん虚構としてのサンカ集団である)。

ミツクリ(箕作り)・ミナオシ(箕直し)などとも呼ばれたサンカは、定住せずにテント生活を送り、農具を編んだり竹細工をしたりを生業としてきたらしい。過去に(まともな)民俗学者が様々な説を展開してきたが、中世以来とする説も江戸末期あたりに発生したとする説もあり、結局詳細な事実はもはや分からないのかもしれない。だからこそ流浪民好きにとっては興味を掻き立てられるわけであるが・・・。

民俗学研究家の沖浦和光の著作「幻の漂白民・サンカ」は、それまでのサンカ研究を渉猟しつつ、独自の論を展開している。伝奇性はさほど濃くなく、それだけに信憑性が高いような気もする。