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おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想/ロジーナ・ハリソン

本好きSNSの友人のお勧めにて。


20世紀初頭、ヨークシャー州出身の純朴な田舎娘がイギリスの子爵夫人レディ・アスターに仕えた35年間の日々を振り返る回想記。温かみのある人間観察眼とユーモラスな筆致で西洋版「家政婦は見た」を綴っている。

旅行がしたいという思いからメイドになることを思い立ち、少しずつ階梯を上がっていくローズだが、当時の執事・従僕・メイドと言った職種の実際が垣間見られて興味深い。貴族の使用人は多岐に亘っており(しかも大人数)、当時の重要な雇用先であり、一種の企業のごときものなんだなと思わせた。

ローズが仕えたレディ・アスターアメリカ出身の勇敢でパワフルな女性で、女性初の国会議員になったりと実に勇ましい。その代わりに傲慢でわがままで自分勝手でもあり、ローズも最初のうちは手を焼くのだが、なだめたりすかしたり脅したりで、いつしかなくてはならぬ大事な腹心となっていくのである(あくまで身の回りの世話においてだが))。そして奥様に対して時には諫言や批判を呈するので「おだまり、ローズ」が頻発されることになる。

レディ・アスターはまた献身的な政治家でもあり、戦時中は空爆された都市のため、必死に活動し、下々の者には慈愛を示すような、魅力的な人物に描かれている。これを読んでいて思い出すのは、かつて某国大統領の第○夫人だったかのタレントで、傲慢でわがままで思想的にも偏向していそうだが、バラエティでの過酷なロケも辞さない果敢さや妙な愛嬌がレディ・アスターと似通うように感じられるのである。まぁどちらも端から見ているから面白いので、密に接するのはご勘弁願いたいかも(笑)。

つましく、賢明で、しかし明朗なローズの筆致は楽しく、当時の階級社会も活写している。それぞれが分際を知っていた当時を懐かしんでいるが、戦後の民主的社会を鼻白んで眺めている風もあり、生まれついた時代による価値観というものなのであろう。執事であるリー氏の、うやうやしくやや皮肉げな言動も面白く、従僕やメイドの世界が生き生きと描かれている。