本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

2006-01-01から1年間の記事一覧

黄金の華/火坂雅志 

徳川幕府草創期に、貨幣鋳造を司る金座銀座を差配した後藤庄三郎を主人公とする歴史小説。この人については、武士なのか商人なのか職人なのか今ひとつ良く分からなかっただけに興味深く読んだ。庄三郎の父親は斎藤道三に滅ぼされた長井家の武士で、浪人した…

少年時代/池永陽

郡上踊りと清流で有名な郡上八幡を舞台にした少年小説である。 6年生までに高い橋から川へ飛び降りられたら一人前という因習がある町で、主人公の良平は中1になってもまだ飛べずにいる。彼の回りには、気の良い友人たち、優しい姉、個性的な教師がいて、淡…

時の“風”に吹かれて/梶尾真治

カジシンお家芸の時間物、ドタバタ、ホラー、ショートショートなど、さまざまな作品が詰め込まれた短篇集。あちこちに発表した物を再編集したらしく、作風がバラバラだが、だからこそこの作家の多才さが浮かび上がった気がする。以下、印象に残った何編か。…

光文社古典新訳文庫版「飛ぶ教室/エーリヒ・ケストナー」について

光文社古典新訳文庫版の「飛ぶ教室」について思うところを書いてみました。あの翻訳が気に入っている方、これから読んでみようと思っておられる方はお読みになりませぬようお願いいたします。 子供の頃からの愛読書だが、文庫本がなかなか入手出来ず、大人に…

北條龍虎伝/海道龍一朗

後北條三代目・氷龍(こおりのりゅう)と呼ばれる北條氏康と、義弟に当たる焔虎(ほのおのとら)・北條綱成の二人の成長と友情と苦闘を描く歴史大作。前作の惡忍は、これまでの高潔な登場人物が心地よかった作品と違ってやや違和感があったが、今作は今まで…

歌川国芳

NHK教育・知るを楽しむ「ギョッとする江戸の絵画」は、岩佐又兵衛(荒木村重の息子である)、葛飾北斎、伊藤若冲など、奇想の画家を美術史家の辻惟雄が案内するもので、最終回は歌川国芳だった。怪奇・猟奇や色鮮やかな豪傑、役者絵など、さまざまな絵が残っ…

入江泰吉

昨日、テレビ東京系列の「美の巨人たち」で採り上げていた入江泰吉は、大和路の美しさを撮り続けた写真家である。焦点を当てていたのは「斑鳩の里落陽」という作品だが、法隆寺と夕日と雲のコントラストが、胸を締め付けるような郷愁を醸し出している。奈良…

惡忍/海道龍一朗

飛び加藤の異名を取る超絶的な忍者・加藤段蔵を主人公にした時代ハードボイルドと言うところか。海道作品と言えば、「真剣」「乱世疾走」など、高潔な好漢たちを主人公にした痛快時代小説という感じだったが、新たな作風への挑戦か、或いは悪辣で虚無的なヒ…

逃亡くそたわけ/絲山秋子

福岡の精神病院を逃げ出した男女が、九州を縦断するような逃避行を繰り広げる。芥川賞を受賞した絲山秋子の直木賞候補だが、このタイトルを見た時にはぶっ飛んだ(笑)。躁鬱病の主人公(女性・20才)は、強烈な副作用に襲われるテトロピンの服用が嫌さに…

フランシスコ・デ・スルバラン

11/4の土曜日、テレビ東京系列の「美の巨人たち」という番組ではフランシスコ・デ・スルバランというスペインの画家を採り上げていた。1600年代くらいに少しだけ活躍した宗教画家であるらしいが、その後、時代に取り残されたように忘れられていったとい…

マチルダ  ボクシング・カンガルーの冒険/ポール・ギャリコ 

天才的ボクサーのカンガルーを巡る、愛すべき愚かな人間たちを綴ったコメディーである。三流芸人をナイトクラブに斡旋している芸能エージェントのソロモン・ビムスタイン(ビミー)のもとに、マチルダという名のボクシングをするカンガルーを連れた元英国チ…

ホームタウン/小路幸也

主人公・行島柾人はデパートのトラブルシューターをしている青年で、両親が殺し合いの果てに死亡しており、自分たちに流れる人殺しの血を恐れて妹・木実と離れて暮らしている。妹から結婚を知らせる手紙が届いて喜んだのも束の間、彼女が行方不明になってい…

獣たちの庭園/ジェフリー・ディーヴァー

あざといくらいなどんでん返しが魅力のジェフリー・ディーヴァーによる初の歴史ミステリ。悪辣なギャングだけを標的にする殺し屋ポール・シューマンは、海軍の罠に嵌められ拘束される。ナチス高官の暗殺と引き替えに、前科を帳消しにしてやるというのである…

アンリ・ルソー

本日のNHK教育「新・日曜美術館」はアンリ・ルソーを採り上げていた。絵の教育を受けておらず、日曜画家から出発したルソーは、初期の絵画ではボロクソに言われていたようだ。確かに人物のバランスや遠近感のない構成など、とても稚拙な感じがする。番組…

殺生石/富樫倫太郎

幕末の蝦夷を舞台に、魔物の力を得ようとする怪人たちと、これに対する陰陽師、蝦夷政府の面々等の戦いを描く、時代ファンタジー。フランスから江戸幕府に派遣された士官に化けているサンジェルマン伯爵は、2800年を生き続ける魔人であり、日本にソロモ…

女信長/佐藤賢一

織田信長は実は女であったという設定の架空歴史小説。のっけから斎藤道三との情交場面が描かれていたりする(笑)。父親織田信秀に見込まれ、信長として家を継いだ御長は、女の考え方で世に大平をもたらそうと画策する。長い戦乱の世は、男たちが動乱を楽し…

女信長/佐藤賢一

織田信長は実は女であったという設定の架空歴史小説。のっけから斎藤道三との情交場面が描かれていたりする(笑)。父親織田信秀に見込まれ、信長として家を継いだ御長は、女の考え方で世に大平をもたらそうと画策する。長い戦乱の世は、男たちが動乱を楽し…

うそうそ/畠中恵

回船問屋と薬種屋を営む大店長崎屋の病弱な若旦那一太郎と、愉快な妖(あやかし)たちのやりとりが楽しい時代ファンタジー「しゃばけシリーズ」の五作目は久々の長編である。しかも今回若旦那は旅に出るらしい。どんな珍道中になるものやら・・・(笑)。 湯…

うそうそ/畠中恵

回船問屋と薬種屋を営む大店長崎屋の病弱な若旦那一太郎と、愉快な妖(あやかし)たちのやりとりが楽しい時代ファンタジー「しゃばけシリーズ」の五作目は久々の長編である。しかも今回若旦那は旅に出るらしい。どんな珍道中になるものやら・・・(笑)。 湯…

吉田自転車/吉田戦車

漫画家吉田戦車の自転車エッセイ。WEB現代に連載されたものだそうで、ごく短文のエッセイ集である。ロードバイクで峠を攻めると言ったようなガチンコ自転車乗りではなく、チョイ乗り、ポタリング程度だが、それ故の自転車の楽しさというものが味わえる。中年…

海国記 平家の時代/服部真澄

経済摩擦や謀略などを得意とする著者の手がけた歴史小説で、物流の視点から源平の盛衰を描いている。 上巻に登場するのは「渡し」と呼ばれる伝説の水主一族の楫師(かじとり)・水竜、水竜に買われた日宋の混血少女・千鳥、淀川の水運を仕切る女傑・賀茂の真…

怒濤のごとく(上・下)/白石一郎

鄭成功を主人公とする海洋歴史小説。「海覇王/荒俣宏」の鄭成功が、あまりにも狂気じみて直情径行な造形だったので、もう少し爽快感のある海の王の物語が読みたかったのだが、これも似たようなものだった。平戸での幼少時代、海賊・海商から明国の総兵官に…

海覇王/荒俣宏

海覇王(上) 海の巻 元に滅ぼされた明国を憂い、オランダが占領する台湾を明復興の拠点にしようとした鄭成功の物語。鎖国政策に揺れる江戸初期の長崎・平戸の海商、高砂(台湾)を占領するオランダ、明の海賊の三つ巴の戦いを描きながら、平戸に生まれた混血…

東京バンドワゴン/小路幸也

東京の下町で古本屋を営む4世代8人の大家族を舞台に、ややミステリー的な興味をからめながら涙と笑いの人情ドラマが展開される。書評でもホームドラマの雰囲気と書かれているが、本編にホームドラマへの献辞がある。物語を語るのはすでに亡くなっているお…

嘆きのサイレン/茅田砂胡

美貌で豪快でエネルギッシュで傲慢で有能な戦士であるクーア財閥令嬢と、ヘラヘラしていて侠気があって正義漢でこちらもメチャクチャ強い宇宙海賊ケリーの活躍を描いた「スカーレット・ウィザード」、仮想中世ヨーロッパ風世界を舞台にした戦国時代ファンタ…

下妻物語・完/嶽本野ばら

強烈に痛快で面白かった青春小説の傑作「下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん」の続編で、「ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件」という副題が付いている。あのすっとんきょうな二人の続編が読めるのは嬉しいが、何故殺人事件なのだろうか。二人…

樓岸夢一定(ろうのきしゆめいちじょう)/佐藤雅美

秀吉麾下の部将として精励した蜂須賀小六を主人公に、戦国の国盗りを描いた歴史長編。木曽川流域の川筋者を束ねる蜂須賀党の魁首小六は、いわゆる土豪で、美濃と尾張が争う間で運輸、諜報、攪乱などの戦場稼ぎをしており、父親が斎藤道三と縁があることもあ…

獄中物

獄中記というのはどうも癖になるようで、追記のように5冊ほども読んでいるだろうか。普通の人の目には明らかにならない閉鎖的な世界の、特異な経験を経てきた人間たちばかりなのだから、興味深いことはこの上ないが、そう言っては失礼か。 刑務所の王/井口…

三日月が円くなるまで/宇江佐真理

東北の大藩であった仙石家は、戦国のどさくさに家臣島北に独立されて藩領の肥沃な土地を奪われ、江戸の現在に至るも角逐を繰り返しているが、一橋家の賄賂の要求を断ったところを島北が横取りして面目を潰された上に、島北が版図を拡大しようとしている気配…

フラッシュ/カール・ハイアセン

フロリダの豊かな自然を愛し、環境を守るためなら非常識で過激な行動も辞さない善人と、俗悪な観光業者・開発業者とのトラブルをテーマにスラップスティックなミステリーを書き続けるカール・ハイアセンの、「HOOT」に続くヤングアダルトノベル。海水浴場に…