本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

世界の辺境とハードボイルド室町時代/高野秀行・清水克行

辺境を旅するノンフィクション作家と中世史研究家による異色の対談集。

高野には「謎の独立国家ソマリランド」という著作があるが、内紛の悲劇が襲ったソマリア室町時代の社会状況が酷似しているという観点から接近した二人らしく、博覧強記の二人の語る内容はとてもスリリングで興味深い。中東やアフリカで続く部族社会の紛争をニュースで知る時、何だか戦国時代みたいだよなぁと漠然と思っていたが、やはりそういう共通点があったのである。

室町時代との共通点では、私的制裁やアジールなど。人の命をもので購うとか。何せ博覧強記の二人だから、出てきた内容をすべては記憶できないし、引用することも出来ない。以下、印象に残ったエピソード。

中世史の資料は分量がほどよく、研究者はすべての文献に目を通した上で論を立てることが出来る。対して江戸時代は資料が多すぎ、古代は少なすぎて苦労するとか。そして、信長の比叡山焼き討ちがなければ大量の資料が残されて、中世史研究家はもっと苦労したに違いないという自虐ネタのような話。

発展途上国へ日本の中古車を輸出する業者が多いのも、日本ほど中古車が安い国がないからだというのも納得。一度、他人の使ったものは穢れているという思想かららしい。これもなるほどの話だ。

犬公方綱吉の生類憐れみの令は、江戸時代のかぶき者(戦国の荒々しい気風を羨み、非行に走る不良侍)が犬を食べていたことから、戦国かぶれを禁止するためであったのではないか、と言うのも目から鱗の話だ。

思えば世界の辺境も歴史の世界もここではないどこかであり、辺境作家も歴史家も知識と行動力で未知の世界に踏み込んでいくわけだから、そりゃ共通点もあろうというものだ。二人の著作をもっと読んでみたくなった。