本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青春・ユーモア・恋愛・その他現代小説

この夏の星を見る/辻村深月

コロナ禍でほとんどのクラブ活動が制限されていた2019年夏、茨城県の砂浦三高の天文部も夏の合宿が取りやめになった。また、何校かで行っていた、確認できた天体の数を競争するスターキャッチコンテストの開催も危ぶまれていたが、ネットでスターキャッチコ…

月の立つ林で/青山美智子

タケトリ・オキナが語る「ツキない話」というポッドキャストを聞いている様々な人々を描いた連作小説。 仕事で挫折し、看護職以外の職に就こうとしている元看護師、芽の出ないお笑い芸人、両親が離婚し、母親に疎まれていると思っている女子高生、娘にできち…

成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈 

滋賀県大津市膳所を舞台に、頭がよくて風変わりでマイペースな成瀬あかりと、成瀬の幼馴染で、風変わりな友人をそばで眺めて成瀬あかり史の証人になることを決めている島崎みゆきの物語。 「天下を取る」とか「二百歳まで生きる」とか決めている成瀬だが、第…

空をこえて七星のかなた/加納朋子

すべて星や宇宙をモチーフにした短編集。どの話も読ませるが、幾つかの短編に登場する七星(ななせ)という少女がポイントになっている。 七星と父親は小学校の卒業記念旅行に石垣島へ赴く。母親は遠いところへ行ってしまい、二人で暮らしているという設定だ…

虹の岬の喫茶店/森沢明夫

辺鄙な岬にある喫茶店を舞台にした連作長編。 登場するのは、妻に早世され、四歳の娘と共に虹探しの冒険ドライブに出た父親とか、就活に悩む大学生とか、それぞれ虹の岬の喫茶店に辿り着いて、初老ながら毅然とした店主、悦子さんに癒されたり励まされたりし…

お探し物は図書室まで/青山美智子

文庫化による再掲、と言うなの使いまわし(笑)。 小学校に隣接するコミュニティハウスを様々な所用で訪れた人々(皆それぞれ鬱屈を抱えている)が、館内の図書室にふと立ち寄り、レファレンスコーナーで希望するような書物を調べて貰おうとすると、そこには…

二百十番館へようこそ/加納朋子

就活に失敗し、ネトゲ廃人の自宅警備員となっていた刹那(オンラインゲームでのHN)は、親に見捨てられ、島流しの憂き目に。付き合いのなかった伯父の残した遺産として離島にある建物を相続して住み込む羽目になったのだ。企業の研修センターとして建てられ…

二百十番館へようこそ/加納朋子

就活に失敗し、ネトゲ廃人の自宅警備員となっていた刹那(オンラインゲームでのHN)は、親に見捨てられ、島流しの憂き目に。付き合いのなかった伯父の残した遺産として離島にある建物を相続して住み込む羽目になったのだ。企業の研修センターとして建てられ…

青山美智子作品を二作

木曜日にはココアを/青山美智子 目黒川沿いの、落ち着いた佇まいのカフェで店員をしている若者は、木曜日になるとやって来てココアを注文する女性に心惹かれているが、ほのかな恋心を語っているだけで行動には出ない。ただホッとするような独白が続くだけ。…

みとりねこ/有川ひろ

猫と人とのほろりとさせる関わりを描いた猫短編集。猫と飼い主の旅を愉快に描いた「旅猫リポート」外伝二篇、「アンマーとぼくら」のスピンオフ一篇も収録されている。 suijun-hibisukusu.hatenablog.comsuijun-hibisukusu.hatenablog.com どの作品も読ませ…

七人の敵がいる/加納朋子

われら荒野の七重奏(セプテット)の前編にあたる。 suijun-hibisukusu.hatenablog.com 同じように山田陽子(バリキャリの有能編集者)が主人公で、PTAやら学童保育やら自治会などの理不尽な(と考えてしまう)役回りに抵抗しつつ奮闘するさまをユーモラスに…

われら荒野の七重奏(セプテット)/加納朋子

加納朋子の小説は以前はよく読んでいたものの最近はすっかりご無沙汰だったが、音楽の要素のありそうなタイトルだと思って手を伸ばしてみた。中学吹奏楽部の親たちの奮闘をユーモラスに描いている。 主人公、山田陽子は出版社でバリバリ働く有能編集者であり…

犬がいた季節/伊吹有喜

三重県内の進学校である八陵高校(ハチコウ)に迷い込んで飼われることになった犬コーシローが見つめてきた高校生たちを描く青春小説。昭和の終わりから二十世紀の終わり(コーシローの生涯と重なる)までの時代が綴られている。 コーシローを最初に保護した…

赤と青とエスキース/青山美智子

一枚の絵とともに流れる時間を描いた連作長編。 オーストラリアに交換留学生としてやってきたレイは留学先に馴染めず、鬱々と暮らしている。ある日、アルバイト先の先輩(ワーホリで来ている日本人女性)に誘われてバーベキューに参加したレイは、移住した日…

線は、僕を描く/砥上裕將

水墨画をモチーフに、心を閉ざして生きる大学生が再生していく青春小説。 主人公の青山霜介は二年前に両親を事故で亡くしている。叔父に引き取られた後に大学に入り、残された資産で生活には困らないが、心の中にガラス張りの部屋を作り、のべつその中に閉じ…

あたしの拳が吼えるんだ/山本幸久

小五少女の女子ボクシングをモチーフにしたユーモアスポ根小説である。 シングルマザーに育てられる橘風花はある日歯科医院でボクシングジムの練習生募集のポスターを目にする。興味を示した風花を勧誘してきたのは歯科の受付職員で、このジムオーナーの娘で…

旅する練習/乗代雄介

以前の芥川賞候補になった作品である。まずタイトルが奇抜。旅をするための練習なのか、練習が旅をしているのかと、本書の情報に接したときに思ったが、後者であった。 小学校を卒業したばかりで私立中学への入学が決まっている少女、亜美(アビと読む)は、…

四角い光の連なりが/越谷オサム

読書網友の書評ブログで読んでみようと思った本。鉄道をモチーフにした五篇の短編からなっているが、連作ではなく、それぞれが独立した作品である。どの作品もほのぼのだったりユーモラスだったりノスタルジックだったりで、読後感の良いものばかりだった。 …

羊と鋼の森/宮下奈都

ピアノにもクラシックにも興味のなかった高校生が、調律された学校のピアノの音色に魅了され、調律師を目指して成長していく物語。 主人公外村は北海道の自然の中で育ち、様々な音を聞いて育ったため感性が豊か。調律の腕こそ発展途上だが、音色の繊細さを聞…

阪急電車/有川浩 

阪急電車今津線をモチーフに電車に乗り合わせた人たちのドラマを描いた連作小説で、袖すり合うも多生の縁を描いている。登場するのは今から始まる恋の若い男女だったり、婚約者を寝取られた復讐に結婚式に白いドレスで討ち入りした女性だったり、賢明な老女…

少年と犬/馳星周

第163回直木賞受賞作。ノワール小説が本領の著作は読んだことがないが、本作のタイトルからして少年と犬の交流を描いていると思われ、手を出してみた。 シェパードと和犬の雑種と思われる、賢く誇り高い旅する犬を狂言回しにした連作で、少年はなかなか出て…

風に舞いあがるビニールシート/森絵都

著者の作品は何作か読んでいて、どれも読後に元気が出てくるようなユーモラスなものだと思っていたが、本作は短編集で、なかなか多彩な語り口である。印象に残ったのは「守護神」「ジェネレーションX」表題作の「風に舞いあがるビニールシート」。 「守護神…

教室に並んだ背表紙/相沢沙呼

中学校の図書室をモチーフにした連作学園小説である。 登場人物は少しずつ重なっているが、必ず登場するのが学校司書のしおり先生。陽性で生徒思いでやや天然で子供っぽいキャラクターだ。 そして、しおり先生が、それぞれの篇の悩める主人公(カースト上位…

夢見る帝国図書館/中島京子

語り手である女性作家は、上野公園で個性的なファッションで自由奔放かつ傍若無人な初老女性の喜和子さんと知り合いになる。 彼女は戦後すぐの幼い頃に上野で復員兵ふたりと暮らしていたということで、そのお兄さんが語った帝国図書館(現在の国立国会図書館…

リアスの子/熊谷達也

気仙沼をモデルにしたと言われる仙河海市を舞台に、中学教師の奮闘を描いている。 語り手の和也は32才の数学教師で、陸上部の顧問をしている。持ち上がりの三年生の担任となる一学期が始まる直前、転校生を担当することに。急遽の転校生には何か事情があるの…

あっぱれアヒルバス/山本幸久

「ある日、アヒルバス」続編。suijun-hibisukusu.hatenablog.com 「ある日」の2008年から8年経つが、主人公の高松秀子は相変わらず一生懸命にドタバタしている。指導係として面倒を見た新人たちは「華のゼロハチ組」と呼ばれてそれぞれに活躍しており、後輩…

傲慢と善良/辻村深月

ストーカーの恐怖を訴えていた婚約者が失踪という出だしで、いかにもそういうミステリーかと思いきや話はあっちこっちへ転がり、婚活における傲慢さと善良さについてページの多くが割かれている。 小さな輸入ビール会社を営む西澤架(40才)は外見も経歴もイ…

続 横道世之介/吉田修一

横道世之介続編suijun-hibisukusu.hatenablog.com のほほんと生きていて若いうちに亡くなった横道世之介を、共に過ごした人々が東京オリンピックが行われている(はずの)2020年から時々回想する体裁の小説。 バブル崩壊にぶち当たって就職出来ず、バイトと…

島はぼくらと/辻村深月

瀬戸内海に浮かぶ冴島(架空)を舞台に四人の高校生を描いた青春小説、という構成だけれど、それだけではないところがいかにも著者らしい。 開明的な村長がIターンやシングルマザーの移住を呼び入れて人口を増やし、島のおばちゃんたちを集めて地場産品の会…

政と源/三浦しをん

墨田区の下町育ちの幼なじみである有田国政と堀源二郎の二人をユーモラスに描いた老人小説である。 実直で堅物の銀行員として生きてきた政に対し、つまみ簪職人の源は自由奔放で飄々として無茶苦茶な爺さんであり。横鬢にわずかに残った髪の毛を赤やらピンク…