本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

氷上の光と影/田村明子

長年フィギュアスケートを取材してきた著者が、近年のブームから十年くらい前までのフィギュアスケート周辺の話題をつぶさに紹介したノンフィクション。

ケリガン/ハーディング事件」によってアメリカ国内でフィギュアスケートが俄然注目を浴び、フィギュアスケートバブルが生まれた皮肉とか(バブルだからやがてはじける)、新採点法の契機となった不正採点疑惑の真偽とか、この騒動は二組目の金メダルを得たカナダ選手を過剰に贔屓する北米マスコミの狂躁によってもたらされたとか、新聞やテレビでは報道されない裏側がスリリングで興味深い。

フィギュアスケート関係者にジャネット・リンの話をしてください、と頼むと、誰もがうっとりしたような表情を見せる。」その後、彼女の滑りの自然な美しさについて語られるそうだが、そうか、銀盤の妖精はそういうスケーターだったのかと感心する。札幌オリンピック当時の小五男子はフィギュアよりも日の丸飛行隊に夢中になっていたのである(笑)。

芸術かスポーツか、失敗する大技より成功する小技の方が得点の高い新採点法の問題(5年前の本なので、おそらくこれも改変があるだろうが)、コーチたちの戦い(大物コーチがリンクサイドにいると、それだけでジャッジにプレッシャーがかかるという政治力)など、スケート好きには読みどころも多い。ただし2007年の出版なので、やや情報が古い感じもするのは致し方ない。日本フィギュアがなぜここまで強くなってきたのか、その辺も書いて貰えたら更に面白かっただろう。