本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

三陸海岸大津波/吉村昭

歴史作家の著者がかつて三陸を襲った大津波について調査し記したもの。元々ドキュメンタリー的な小説を書く人だと思っているが、本書はまさにノンフィクションに他ならない。昨年三月の東日本大震災を受けて増刷されたもので、未亡人の津村節子の意向で印税は寄付される由。父祖の地の災害史を知りたかったのと、わずかでも寄付に回ればと思い読んでみた。

三陸地方は、明治29年、昭和8年、昭和35年と、近代になってからも三度の津波災害を被っている。海が持ち上がり、水の壁が集落に流れ込み、家々を破壊し火事を起こし多数の人を死なせ、多くの悲しみをもたらしたが、詳細に記されたその有様は、昨年三月に東日本が経験したものに他ならず、胸苦しい思いがする。津波後に書かれた子供達の作文の悲惨さも痛々しい。三月の津波はこの状況の再来だ。

軍隊の出動、医療者の派遣、善意の支援なども本年と重なるものがあるが、当時は内務省という強力な行政組織があったはずで、もしかしたら昨年よりも素早い処置が執られたのかもしれない。

本書が書かれた40年ほど前、著者も証言した人たちも、対策が十分に執られているので津波が来たとしても被害は減っていくはずだと楽観的に考えていたようだ。あまりにも規模が違いすぎたこともあろうし、或いは50年の間の油断があったのかもしれない。災害は繰り返すと言うことを肝に銘じておきたい。