本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

大阪アースダイバー/中沢新一

東京の歴史と地形の関わりを掘り起こし、縄文海進期の岬にあたる部分が現在の聖域になっているとしたのが「アースダイバー」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20080908/p2。その考え方を敷衍して、大阪の精神性を地形と古代史から論考したのが本書である。

元来の大阪は上町台地生駒山に挟まれた湖だった。この東西を結ぶ線に大阪の基盤があり、河内湖に土壌が堆積して砂州となり、商業町となり、商都として発展してきたというのが眼目である。そして、笑いを愛好するのも、商業都市であるのも、歴史や地勢が由来となっており、その根拠を様々な形で列挙している。

物部守屋が討たれ、埋められた場所が最初の天王寺で、死体を埋めるときには笑いながらという儀礼があったから、大阪が笑いに敏感なのは当然だそうである。砂州に上陸したのは海民であり、流通を担うことも得意であったから商業が発展した(まぁ、砂州では農耕は成り立ちにくかろうし)。

農耕社会では、贈与とか謝礼とかでモノの流通はすべて有縁であったの対し、商業では、縁の切れた品をカネを媒介に流通させた。そして砂州などの境界は無縁の地となる。千日前、新世界と言った繁華街は、元々は墓地や焼き場のあった地であり、かつての葬送儀礼から芸能が発展したことを思えばこのあたりが芸能の地であるのも当然である。

などを、いかにも宗教学者らしく思索的な装飾を加えながら論考を展開している。無縁の考え方は義理の叔父である網野善彦史学を援用したものだろう。学問的な裏付けがあるとは思えず、「妄想」「トンデモ」という一言で片付けることもできる。しかし、半村良、輶慶一郎などの伝奇時代小説を愛読してきた稗史好きとしては、もう狂喜乱舞するような内容でもある(笑)。

元々が週刊誌に連載されたものだし、スリリングな歴史読み物、或いはファンタジーと思うのが正解かもしれない。それにしても、学問的な裏付けがないからと梅原猛の著作を気嫌いしているのに、なぜ中沢新一は受け入れてしまうんだろうか(笑)。