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東日本大震災 石巻災害医療の全記録/石井正 

東日本大震災での被災後、医療機能の麻痺した石巻において救急医療を一手に引き受けた石巻赤十字病院の医師であり、石巻県合同救護チームのリーダーでもあった著者が、震災後6ヶ月間の苦闘を克明に記したノンフィクションである。

災害救護活動も任務とする日本赤十字傘下の病院と言うことで、2007年に医療社会事業部長という役職を任命された著者は、防災マニュアルを見直し、行政、警察、消防、自衛隊など関係機関との連携を実践してきたことが冒頭に綴られている。これが震災の時に生きたようだ。

発災当日、大地震に直面した石巻赤十字病院は、マニュアル通り淡々とトリアージエリアを立ち上げた様子が描かれている。通常の震災であれば当日に多数の外傷患者が搬送されて来て徐々に減少するそうだが、当日は意外に少なく、二日目以降の長期間、救急患者を受け入れることになったようだ。大津波という未曾有の災害は想定外であり、低体温と溺水患者が多く搬送されてきたという。

そして、宮城県の災害医療コーディーネーターを移植されていた著者は、石巻圏合同救護チームを立ち上げる。平成の大合併で大きくなった石巻市には小さな集落が多く存在するし、東松島市、女川町も石巻圏に含まれる。散らばった避難所の医療ニーズをどう見極めるかというのが大きな問題だったが、これをローラー作戦という力業でえいやっと把握してしまう。そして緊急度の高い順に全国から集まった支援チームを振り分けていくのだ。限られた医療資源をいかに効率よく振り分けていくかも大きなポイントで、これは組織マネジメントの発想だろう。「情報は向こうからはやってこない。こちらから取りに行くものだ」「そもそも論の評論家は要らない」などは名言として記憶に残る。

関係機関だけではなく、快く支援を申し出た民間企業との協働にも触れられているが、大震災に立ち向かったすべての人間の連帯感が胸を熱くする。こう言っては語弊があるが、読み物として十分に面白いのだ。出版に関わった人間に「本文構成 ○○」とあるから、石井医師の克明な記録を元にプロのライターが練ったものかもしれない、とも思う。

ともあれ、被災後の救護医療に傾注し、上手くフェードアウトさせた医師の記録は感動的だし、蓄えられたデータやノウハウは今後の災害対策に生かされることにもなるのだろう。硬直した行政を叩くよりは(それを得々と語る支援団体がツイッターで槍玉に挙げられているのを一時期よく目にしたが)、協働相手として粘り強く連携していった方が結局はお互いに得なのだ(WIN-WINか)。行政機能を大いに損壊された被災地では尚更のことだ。

マスコミから「「強力なリーダーシップで難関を切り抜けた指導者」的な扱いをされることに違和感を覚えている著者だが、それなら副題に『「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7ヶ月』とあるのはどうなんだろう。おそらく出版側の目論見なのだろうと思うが・・・。

病院スタッフの活躍にも触れられている。医師、看護師、コメディカル、事務職員など、およそ医療者なら「困っているひとを助けたい」という医療者魂があり、みなそれにそって頑張ったのだ、というような一節がある。ネットで十年来お付き合い頂いている方が実はこのスタッフの中におられて、発災当初から医療者魂で頑張ってこられたんだなぁと感慨を持った。

自分は神奈川育ちだが、亡父が石巻出身なのでこの地には昔から縁があった。親戚も被災しているし、今後の復興がとても気に掛かる土地である。