本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

わたしの小さな古本屋/田中美穂

倉敷の古民家で小さな古書店蟲文庫」を二十年ほど営む著者が、開店からの来し方や趣味について、あちこちの雑誌に掲載したものを一冊にまとめた古書エッセイ。

高卒後に勤めた会社が過酷で体をこわして退職、「子どもの頃から要領が悪く、計算が苦手で、コミュニケーション能力も低いほう。」という著者は、お勤めには向かないからお店をやろう、本が好きだし資金も少ないから古本屋だと、二十歳そこそこで開業してしまったそうだ。計算もコミュニケーション能力も客商売には必要だと思うのだが・・・(笑)。古書組合には入っておらず、最初は自分の本を店頭に並べ、他はお客さんからの買い取りという営業形態では、それほど大きな商売ではないだろうが、とにかく二十年間廃業せずにやって来たと言うことは適性があったと言うことではなかろうか。

本だけでは商売にならないからと手作りクラフトを置いてみたり、友部正人との交流からライブが行われるようになったり、展示会もあったり、小さな文化発信基地の趣もある。

個性的なお客さんの描写も楽しい(職人風で、一杯引っかけた後に店に現れ、キリスト教関連の古書を買っていく「聖書の赤いおじさん」は傑作だ)。これはコミュニケーション能力と言わずして何なんだろう(笑)。

苔愛好家でもあり、その方面の著書もあるという。猫やカメやクワガタがいて、店裏の物干しでは苔や多肉植物を栽培、望遠鏡で観望もするという、本好きにとって夢のスローライフである。客商売ゆえの大変さもちらりと触れられているが、それでも何か夢のスローライフ(笑)。趣味的におっとりと暮らす女性古書店主は映像化するなら小林聡美主演がいいなぁ。

板壁の向こうから救出した猫ミルさんが蟲文庫ブログにいた。
http://mushi-bunko-diary.seesaa.net/article/272846871.html