本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

評伝

最終飛行/佐藤賢一

ナチスに侵攻されたフランスのために戦い続けたサン・テグジュペリを描く小説である。 作家としてすでに名を成していたサン・テグジュペリは、祖国がナチスに占領され、講和したヴィシー政権(対独協力派)にも失望し、アメリカに渡り、アメリカに参戦するよ…

ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石/伊集院静 

文庫化にて再掲(使い回しとも言う(笑))。 副題にある通り、子規と漱石の交友を中心に、子規の青春から死までを描いた評伝小説である。ノボさんとは、子規の本名正岡升(のぼる)から取られた子規の愛称で、年上に一目置かれ、年下から慕われる、気持ちの…

トラオ 徳田虎雄 不随の病院王/青木理 

文庫化にて再掲。しかしこの時期の文庫入りってなかなかタイムリーだな。やっぱりあの事件のせいなのか? 一代で病院帝国徳州会を築き上げ、現在はALS(筋萎縮性側索硬化症=全身の筋肉が衰えて自発呼吸すら出来なくなる難病)を患いながら、目で文字盤を…

いねむり先生/伊集院静 

著者自身と、色川武大と思しき作家の淡々として繊細な交友を描いた私小説である。女優の妻に死なれ、失意のうちにアルコールとギャンブル漬けの鬱々とした日々を送る著者は、友人を介して「先生」を紹介される。二つの筆名を持ち、麻雀小説で名を馳せ、どこ…

池袋モンパルナス/宇佐美承

戦前、池袋の貸アトリエの集落に拠った、松本竣介、靉光、丸木位里・俊夫妻、寺田政明など、反骨精神に満ちた画家たちの青春を描いたノンフィクション。20年ほど前に出版された話題作で、読もう読もうと思いつつ未読で来たが、松本竣介の巡回展が行われるの…

新 三河物語/宮城谷昌光

「三河物語」は大久保彦左衛門忠教による徳川家と大久保家の勃興を記した史書であり、本書はそこに材を取った歴史小説である。主人公の大久保彦左衛門と言えば天下のご意見番というイメージが強く、時の幕府に対して横紙破りの言いがかりを付ける因業爺いと…

空海の風景(上・下)/司馬遼太郎 

平安時代、日本仏教に大変革をもたらし、書芸、画芸、文芸のみならず、経済や土木などの分野でも異能を発揮した巨人空海の人生や事績を丹念に辿った評伝文学とでも言うべきか。小説と銘打ちながら著者の考察に終始しているのは司馬作品のいつもの手法だが、…

日蓮

鎌倉・妙本寺(比企邸跡)に建てられている日蓮像。新しいものだと思うが、高さ5〜6mのあたりから回りを睥睨している。眉太く、目は大きく、鼻梁の高い意志の強そうな顔は縄文人的に思えるがどうだろう。千葉の生まれだから、南方系の祖先が黒潮に乗って…

やくざ親分伝/猪野健治 

戦前戦後にアウトローの世界で力を発揮した親分たちの事績を綴ったルポルタージュ。やくざというと博徒=任侠と思いがちだが、境目が曖昧な神農=香具師(テキヤ)も含まれていて、戦後の復興を担った闇市を仕切る親分たちに半分くらいのページが割かれてい…

当マイクロフォン/三田完

大河ドラマや鬼平犯科帳など、名調子のナレーションで一世を風靡したNHKアナウンサー中西龍(なかにしりょう)の評伝小説である。三田完はNHK出身の作家だが、小説内では二村淳という芸能番組スタッフと中西の世代を超えた交流(清遊仲間とも言えそう…

刑務所の王/井口俊英

刑務所の王 (文春文庫)大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件で服役した著者が、拘置所内で知り合った伝説の犯罪者について記した評伝。ふとしたことで人生を誤って収監された後、全国の刑務所内に張り巡らされた秘密結社の権力者となっていく主人公が痛快。

褐色の文豪/佐藤賢一

「黒い悪魔」に続き、デュマ家の血筋を描いた歴史評伝小説。ヴィレル・コトレの片田舎で長じた二代目アレクサンドル・デュマは、無邪気で無責任で陽気な快男子で、亡命貴族の子息である友人の影響で文学に目覚め、パリに出て劇作家を目指す。生来が人好きの…