本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青春・ユーモア・恋愛・その他現代小説

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海 

文庫化にて古い投稿を再掲(落ち穂拾いとも言う(笑))。 少し前の話題作。ひょんな事から進学校の野球部女子マネになった川島みなみはマネージャーが何をすればよいのか分からず、本を参考にしようと経営学のバイブル「マネジメント」を手に取ってしまい、…

ランチのアッコちゃん/柚木麻子

話題になった小説が数ヶ月前にNHKでドラマ化されたので原作を読んでみた。しがない派遣OLの三千子はノーと言えない性格で、それを元に男にふられ、うじうじして弁当も食べられずにいると、部長の黒川敦子から「弁当と自分のランチを交換しよう」と持ちかけら…

ある日、アヒルバス/山本幸久

アヒルバスに入社して五年目のバスガイド高松秀子(デコ)が奮闘するユーモア小説。特に優秀ではなく、かなりずっこけており、仕事を愛して愛して愛し抜いている訳でもないデコだが、そこそこには有能で、お客様を楽しませることに専心する、楽しいキャラク…

無花果とムーン/桜庭一樹 

主人公の月夜18歳は前嶋家のもらわれっ子である。「やり手の善人」の異名を取る父親(教師)、年の離れた、頑固で天才的現実主義者な長兄の一郎、美形で闊達でお調子者で素敵な次兄の奈落(一歳上)に可愛がられ、のびのびと育っているように見えるが、出…

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない/桜庭一樹

何とも重苦しい話である。それでも最後までグイグイと読まされてしまう面白さがあり、何かしらのカタルシスも感じさせたりするから不思議だ。語り手の山田なぎさは、超然と浮世離れしている兄を養うために中卒で自衛隊入りを決意している健気な13歳である…

食堂かたつむり/小川糸 

古風でおっとりした主人公倫子は、パワフルでがさつで愛人気質の母(スナック経営)との折り合いが悪く、中学卒業後に家を出て東京の祖母と暮らし、祖母仕込みの料理センスを身に付ける。が、同棲していたインド人にタンス預金から家財道具から一切合切持ち…

海うそ/梨木香歩

ネタばらしあり注意。 日本的情緒を盛り込んだファンタジーを得意とする著者だが、本作にはスーパーナチュラルな要素は(ほとんど)ない。昭和初期、人文地理学(地域の歴史や地質や植生やらを雑多に研究するらしい)の若き研究者秋野は、調査のため南九州の…

わが母の記/井上靖

老耄状態の母親と接しながら、老いを迎えるとはどういうことか、母の頭の中はどうなっているのかについて冷徹に描写した私小説である(著者は「随筆とも小説ともつかぬ」と言っている)。介護保険制度など影も形もない四十年ほど前、同じ言動や不可解な行動…

センセイの鞄/川上弘美

ベストセラーになった当時も読んでいたが、本カフェ(本好きのためのSNS)読書会の課題図書になったので再読。概ね記憶通りの印象だが、忘れている箇所もあって、新鮮な気持ちで読了した。語り手のツキコさんは40手前くらいの独身で、居酒屋で高校時代の国…

空色メモリ/越谷オサム

主人公の桶井陸はデブコンプレックスを持つ高2である。友人との会話から日々瑣末な出来事までを「空色メモリ(USBメモリがブルーだからという単純な理由)」と題して記録し続けている陸は、陽性キャラで頭はそこそこに良さげでややシニカルで自意識過剰で、…

いとみち/越谷オサム

文庫化にて再掲。 主人公の相馬いとは母を早くに亡くし、きつい津軽方言を使う祖母に育てられたために自身も訛りが強く、それがコンプレックスとなっている超引っ込み思案の高一女子だが、何を血迷ったか、コミュニケーション力を高めるためにメイド喫茶での…

天頂より少し下って/川上弘美

友人、親戚、親子(義理の親子も含む)などをシュールにユーモラスに描いた短編集。それぞれ別の雑誌に発表したものを集めたもので、統一性のある編集ではない。わりあいエンターティンメント性が強くて肩が凝らず、しかし何か切実なものを感じさせる世界は…

田村はまだか/朝倉かすみ 

札幌のスナックで小学校クラス会の三次会が行われており、40才になった同級生五人が未だ来ない田村を待っている。田村は風変わりな小学生だった。男にだらしない母親を持ち、貧しく、控えめに律儀に生きているが、ここぞという時の存在感はあって、ニヒルに…

左京区七夕通東入ル/瀧羽麻子

本好きのためのSNS本カフェにてお付き合いのあるYO−SHIさんhttp://yo-shi.cocolog-nifty.com/が採り上げておられて興味を持った本。 http://yo-shi.cocolog-nifty.com/honyomi/2012/10/post-5444.html 京大と思しき大学に通い、春には就職が決まっている女子…

カフーを待ちわびて/原田マハ

「楽園のカンヴァス」がベストセラーになった著者の第一回ラブストーリー大賞受賞作とかで、真っ向勝負の恋愛小説である。沖縄の与那喜島で雑貨屋を営む友寄明青は、家族はなく、愛犬カフーと暮らしているのほほんとして内気な青年である。イケてる幼なじみ…

いとみち 二の糸/越谷オサム 

祖母仕込みのきつい津軽訛りを話すために超気弱、超内向的な高校生いと(しかも小柄で、小6と変わらないくらいだ)は、自分の引っ込み思案を矯正するためにメイド喫茶でのアルバイトを始めてしまう。そして、風変わりだが気のいいメイド喫茶の人々に囲まれ…

バルザックと小さな中国のお針子/ダイ・シージェ 

文革時代の下放政策を経験したフランス在住中国人映画監督が、自分の経験を織り込みながらユーモラスに描く青春小説。フランス語で書かれたものらしい。主人公は医師の息子で、友人の羅(ルオ・機転の利くはしこい少年))は歯科医師の息子である。エリート…

横道世之介/吉田修一 

バブル全盛期、長崎から大学入学のために上京した横道世之介の一年を描きつつ、世之介と関わった人たちのその後を交えて描いた青春小説。世之介はある実在の人物の若い頃という設定がなされているが、なぜわざわざ実在の人物に帰する必要があったのか疑問。 …

神様2011/川上弘美 

305号室に引っ越してきた妙に律儀で古風なくまと散策に出かけるという、他愛なくユーモラスな短編「神様」を、2011年3月12日の福島第一原発爆発事故後にリニューアルしたもの。オリジナル「神様」のくまさんは、葉書を持って引っ越しの挨拶に来たり、ちょっ…

床屋さんへ ちょっと/山本幸久

実直で好人物のサラリーマンだった宍倉勲の人生を少しずつ遡りながら描いた連作小説である。冒頭では七十才を過ぎている勲は、そろそろ自分の入る墓が気になっており、新たに出来た霊園の見学に出かけるのだが、付いてきた孫が霊園の係員をヒーローものに出…

沖で待つ/絲山秋子

俗悪な中年男との見合いの席を中座した日の顛末を描いた「勤労感謝の日」、同期入社の男性社員が亡くなり、かねてからの約束であるパソコン破壊を決行する「沖で待つ」の中編二作を収録する。「沖で待つ」は芥川受賞作。どちらも企業戦士として消耗している…

仏果を得ず/三浦しをん 

お人好しで一生懸命でやや頼りない、文楽(人形浄瑠璃)の義太夫語り健の成長を描く芸道青春小説。伸び盛りでもあり伸び悩んでもいるような中堅芸人が何かをきっかけに一歩階段をあがるというのは落語家小説などではありがちなパターンである(佐藤多佳子「…

池袋シネマ青春譜/森達也

ドキュメンタリー監督、ノンフィクションライターとして活躍する著者が自分の青春時代を顧みて綴った青春私小説。映画好きが高じ、立教大学で映画製作サークルに籍を置く主人公克巳は、役者で身を立てることを望みつつ、実は実社会に出ることを恐れてもいる…

少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹 

主人公七竈の母親川村優奈はごく平凡で善良な女性教師だったが、そういう風に育てられたと思える自分を疎み、「辻斬りのように男遊びがしたい」と考えてしまう。「なかなか燃えない七竈の木は七度竈にくべられて良い炭になる」ということを示唆された優奈は…

うたうひと/小路幸也

様々なミュージシャンをモチーフにした音楽小説集。モデルになったミュージシャンもほぼ想像できるが、そのエピソードは架空だろう。歌もギターも超一流だったミュージシャンが事故入院した病院で語る来し方(なぜ特別の女性が消えてしまったか)、袂を分か…

いねむり先生/伊集院静 

著者自身と、色川武大と思しき作家の淡々として繊細な交友を描いた私小説である。女優の妻に死なれ、失意のうちにアルコールとギャンブル漬けの鬱々とした日々を送る著者は、友人を介して「先生」を紹介される。二つの筆名を持ち、麻雀小説で名を馳せ、どこ…

サヴァイヴ/近藤史恵

「サクリファイス」「エデン」に続き、自転車ロードレースの世界を舞台にした小説集。前二作が白石誓(競争を強いられる陸上競技に嫌気が差し、アシストの立場で競技に参加できる自転車に転向した変わり者。アシストとして評価は高い。)を主人公にした長編…

武士道エイティーン/誉田哲也 

文庫化につき再掲。武士道シックスティーン、武士道セブンティーンに続き、剣道に打ち込む二人の女子高生を描いた痛快な青春小説である。前二作は、狷介で孤高で猪突猛進で傲岸なまでに自尊心の高い磯山香織と、おっとりのんびりしながら芯に強いものを持っ…

赤朽葉家の伝説/桜庭一樹

赤朽葉家は古代よりたたら製鉄に携わり、文明開化後は近代製鉄を導入して、鳥取の僻村紅緑村に君臨してきた大家(たいけ)である。その赤朽葉家の盛衰を女三代を通してコミカルに描き、併せて戦後の世相史と青春を描いた大作。紅緑村に時折現れる山の民(サ…

やんごとなき読者/アラン・ベネット 

英女王陛下が活字中毒者になっちゃったら、という設定のユーモア翻訳小説。バッキンガム宮殿へやってきている移動図書館に偶然に遭遇した女王は、借りなくては悪いかなと言う義務感から自室へ本を持ち帰る。ひとつの趣味に偏って没頭してはならないという不…