本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない/桜庭一樹

何とも重苦しい話である。それでも最後までグイグイと読まされてしまう面白さがあり、何かしらのカタルシスも感じさせたりするから不思議だ。

語り手の山田なぎさは、超然と浮世離れしている兄を養うために中卒で自衛隊入りを決意している健気な13歳である。

ある日、なぎさのクラスに海野藻屑という凄まじい名前を持つ美少女が転校してくる。父親はかつて不気味なヒット曲を出したことのある有名人だが、虐待されているふしがある。嘘をつき、非常識に振る舞う藻屑は孤立するが、なぜかなぎさにまとわりついて、なぎさも渋々友情を覚えることに・・・。

このあたりまでは病んだ友情物語という感じで適当に面白い。自分は人魚だと言う藻屑が「こんな人生は嘘なんだ」とか「人魚は十年に一度、卵を吐き出すだけだから、その間、汚れた海の底で微睡んでいたい」と言う台詞のなんと悲しいことか。

子供時代を生き抜いて大人になることもサバイバルであり、要するに本作には「生きろ」というメッセージが込められているのだろう。砂糖菓子の弾丸では何も撃ちぬけないから、実弾を放てということなのだ。

当初、文庫でデビューした作品が単行本化されたという不思議な経緯をたどった本だが、病んだ美少女藻屑が活写されているだけに、読者の評価が高かったのだろう。重苦しいけど面白い友情小説とでも言うべきか。