本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青春・ユーモア・恋愛・その他現代小説

つるかめ助産院/小川糸

主人公の小野寺まりあは幸せな生い立ちではなく、唯一の身寄りである夫に突然失踪され、失意のうちに思い出の地である宮古島を訪れる。そして、路傍でしゃがみ込む女性(つるかめ助産院を営む鶴田亀子助産師)から声を掛けられ、それがきっかけでつるかめ助…

ハケンアニメ!/辻村深月

アニメに携わる様々な人間模様を描いた連作長編。ハケンとは派遣ではなく覇権で、そのクールで話題性・視聴率・パッケージの売り上げなどでトップを取ったアニメのことを覇権アニメというそうだ。 途中で仕事を投げ出す天才肌かつ問題児の監督、その監督に良…

そして、バトンは渡された/瀬尾まい子

3人の父親を持つという女子高生優子の風変わりな生活や来し方を描いた青春小説。 実母は早くに他界し、父親はやがて再婚。桁外れで非常識な継母に優子はなつき、楽しく暮らしていたが、やがて父親が離婚して海外赴任することに。友達と別れるのが嫌さに継母…

あの家に暮らす四人の女/三浦しをん

古びた洋館に暮らす女たちを描いたユーモア小説。 刺繍作家や刺繍教室で生計を立てる佐知は地味でウジウジした暮らしをしているが、母の鶴代は家付き娘であり(甲斐性のない婿を追い出している)、我が儘でマイペースで、この母に翻弄される佐知が滑稽。 こ…

旅猫リポート/有川浩

猫の語りと、ところどころ三人称の物語で綴られる、猫と人のロードノベル。 独立心旺盛でやや小生意気な猫が、餌をくれる人間と知り合い、事故で怪我しtたのを契機に飼い猫ナナとなる。猫好きでやさしいサトルとナナは意気投合していたが、五年後、サトルに…

ツバキ文具店/小川糸

主人公の鳩子は鎌倉の奥まった地域で小さな文具店を営んでいる30才の女性である。副業として代書屋もしているが、これは単に清書するだけではなく、依頼に応じて内容も考えるという複雑なもの。 依頼は様々で、ペットの猿のお悔やみ、借金の断り、友人との絶…

小さな男*静かな声 /吉田篤弘

体も小さいが、小さいものを集めるのが好きな「小さな男」と、ラジオアナウンサーをしているが自分の低い声が気に入ってない女性「静かな声」の自分語りが延々続く不思議な小説。 小さな男はデパートの寝具売り場勤めだが、複雑怪奇な従業員専用通路を歩く苦…

幸福トラベラー/山本幸久

主人公の小美濃春生は小柄な中二の少年。新聞部に所属し、取材のために訪れた上野のお山で単独行動中の修学旅行生の美少女「行方(なめかた)さん」と出会い、一日、行動を共にすることになる。二枚目でスポーツ万能な父親にコンプレックスを持つ春生に対し…

展覧会いまだ準備中/山本幸久

著者お得意のお仕事小説という感じか。 主人公の今田弾吉は大学応援団から大学院に進学し、小さな市立美術館の学芸員になっている変わり種。幾ら企画を出しても採用されたことがなく、今ひとつ頼りない感じはするが親切な好人物である。ある日、上手ではない…

ジンリキシャングリラ/山本幸久

高校の部活、人力車部を舞台にした青春小説。どの作品も面白いので山本幸久にハズレなしと考えているが今作も面白かった。野球部の先輩の横暴に腹を立てて殴りかかり、退部になった一年生の浅野雄大は二年生の女子に人力車部にスカウトされる(可愛い先輩に…

キアズマ/近藤史恵

自転車ロードレースのプロ選手がレース中に巻き込まれるトラブルを描くサクリファイスシリーズの一冊だが、登場人物がほんのわずかに重なるだけで、プロの世界ではなく、学生の自転車競技の世界を舞台にした自転車青春小説である。柔道部のしごきで友人が障…

昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

夫婦共同名義の人気脚本家による連作小説。中心になる登場人物は28才で未亡人のテツコと義父(テツコにはギフと呼ばれている)であるが、その周辺の人物も含めて、ハートウォーミングでちょっと切なくてユーモラスな物語が綴られている。若くして夫を亡くし…

ウィンター・ホリデー/坂木司

ワーキング・ホリデー続編。いきなり小学生の息子が現れ、父親になったヤンキー上がりの元ホスト(現在は宅配業)沖田大和は、息子が出来た喜びにはしゃぎ気味だが、一方で母親(元恋人の由希子)の存在も気にかかる。息子と過ごすうちになにかと由希子との…

ワーキング・ホリデー/坂木司

元ヤンキーのホストの元に、存在すら知らなかった息子が転がり込んで・・・、というドタバタユーモア家族小説(兼お仕事小説)。ヤンキー上がりの沖田大和は直情径行の正義漢である。つい客に説教してついでに愛の平手打ちまで食らわしてしまい解雇されるが…

愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない/伊集院静

女優の妻を亡くし、放埒に生きていた頃からの知人らを綴った私小説。スポーツ紙の競輪担当記者、芸能事務所関係者、フリーの編集者はいずれも堅気な職業ではなく、いかがわしい世界で蠢いているが、だからこそ著者と通ずるものがある。決してベタベタした友…

大きな音が聞こえるか/坂木司

主人公の泳(えい)は、IT企業で成功した父親のおかげで恵まれた暮らしをしているが、バブルを引きずって享楽的な父親を軽視し、このままレールの上で腐っていくしかないのかとやや人生に絶望している、可愛げのない高校生である。唯一熱中するのは、子供の…

敬語で旅する四人の男/麻宮ゆり子

以前に読書SNSで感想を読み、気になっていた。もうこのタイトルだけで勝利という感じがする(笑)。四人の男たちがそれぞれ主人公となる連作で、それぞれに訳ありの過去を持っている。第一編の主人公真島は二十代のナイーブな青年で、両親が離婚した後、十数…

七帝柔道記/増田俊也

文庫化にて再掲(という名の使い回し)。 著者が過ごした北海道大学柔道部の過酷な練習の日々を描く柔道青春小説。七帝柔道とは戦前の高専柔道の流れを汲む寝技中心の柔道で、現在も北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大…

木暮荘物語/三浦しをん

古びた木造アパート木暮荘に住まう人々を少しずつ重ね合わせながら描いていく連作小説で、冒頭と最終篇がつながるようになっている。三年前にふらりと旅立ってしまった風来坊カメラマンの恋人を諦め、新たな恋人とつきあい始めた坂田繭のもとにまたふらりと…

神去なあなあ日常/三浦しをん

林業青春小説。主人公の平野勇気は、高校を卒業したらしばらくはフリーターで行こうと考えていたが、担任と親の共謀により、三重県の山中深くの神去に林業研修生として送り込まれてしまう。当初は逃げ出すことを考えていた勇気だが(逃走劇が笑える)、世話…

ペンギンの憂鬱/アンドレイ・クルコフ

ウクライナ人作家がロシア語で書いた小説である。本好きSNSの友人が紹介していて読んでみたくなった。主人公のヴィクトルは売れないジャーナリスト兼小説家で、動物園でリストラされたペンギンと暮らしている。このペンギンが憂鬱症を患っているというなかな…

武士道ジェネレーション/誉田哲也

二人の剣道少女の成長を描いてきた「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」「武士道エイティーン」に続く本作では、大人になった二人の現在が描かれる。傲岸不遜、闘志むき出しで、剣道は斬るか斬られるかだと公言して憚らない磯山香織は女子剣…

オヤジ・エイジ・ロックンロール/熊谷達也

仙台の中規模印刷会社に勤務する五十路のサラリーマンがふとしたことでギターを手にし、バンド活動に熱中した学生時代を回顧しつつ、現代のオヤジバンドとして奮闘する音楽小説。おそらく著者の体験がかなり投影されているのだろう。 かつてはG大の五大バン…

あぽわずらい/新野剛志

大手航空会社系列の旅行社で、ツアー客を快適に旅立たせるセンディング業務に従事する遠藤を主人公にした「あぽやん」「恋するあぽやん」に続く三作目。成田空港を舞台に、今回もセンディング業務に関わる泣き笑いが描かれている。お客様に気持ちよく旅立っ…

舟を編む/三浦しをん

大冊の辞書「大渡海」編纂に携わる人々を描き、辞書作りの苦労と、言葉に対する情熱をひしひしと伝えてくれる出版小説とでも言うべきか。社内事情もあって大渡海はなかなか出版されず、15年の長きに亘って編集作業が続けられていて、辞書作りの中心となるの…

陽だまりの彼女/越谷オサム

甘々でしかも相当に切ないラブストーリーである。語り手の浩介は、中学時代、要領が悪く気まぐれで非常識な不思議ちゃんで「学年一のバカ」と呼ばれていじめられていた真緒をついかばってしまい、「キレる子」のレッテルを貼られてしまうが、自分になついて…

流/東山彰良 

直木賞受賞作。70年代後半から80年代にかけての台湾を舞台にした青春小説である。主人公の葉秋生は高校教師の厳格な父を持つが、豪放磊落でアウトローな感じの祖父に可愛がられ育ってきた。元々は優等生だったのに悪い幼なじみの感化を受けて道をはずれかけ…

無花果とムーン/桜庭一樹 

「文庫化にて再掲」という名の使い回し・・・。 主人公の月夜18歳は前嶋家のもらわれっ子である。「やり手の善人」の異名を取る父親(教師)、年の離れた、頑固で天才的現実主義者な長兄の一郎、美形で闊達でお調子者で素敵な次兄の奈落(一歳上)に可愛が…

肉小説集/坂木司

食物としての肉をモチーフにした、コミカルでほろりとさせる短編集(最初の一篇はややブラックだ)。特に印象に残ったのは「アメリカ人の王様」と「肩の荷」の二篇。「アメリカ人の王様」は、祖父に上品で粋な生き方を仕込まれた商業デザイナーが婚約者の父…

調律師/熊谷達也

文庫化にて古い投稿を再掲(=落ち穂拾い(笑)) 共感覚(音と同時に色が見えたりする特殊な感覚)を持つ調律師が主人公のる連作長編。かつて将来を嘱望されたピアニスト鳴瀬玲司は、ドライブ中の事故で調律師の妻を失い、自分もピアニストの道を絶たれて現…