本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

沖で待つ/絲山秋子

俗悪な中年男との見合いの席を中座した日の顛末を描いた「勤労感謝の日」、同期入社の男性社員が亡くなり、かねてからの約束であるパソコン破壊を決行する「沖で待つ」の中編二作を収録する。「沖で待つ」は芥川受賞作。どちらも企業戦士として消耗している女性の述懐で、著者自身が投影されているのだろう。

著者の作品はこの一冊と「逃亡くそたわけ」を読んでいるだけだが、どれも、男女の友情を描きつつ安易に恋愛に持ち込まないところに好感が持てる。

個人のパソコンの中には他人に見られては困る秘密が集積されており、どちらかが死んだら破壊して貰うという約束は、友人太っちゃんの死によって主人公が実行することになるが、太っちゃんの秘密は、公言していたエロ動画などではなく、でもやっぱりひとに見られたくないものだった・・・。

男女を越えた友情と主人公自身の秘密を描き、ユーモラスながらどことなくスリリングな表題作だ。