本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

バルザックと小さな中国のお針子/ダイ・シージェ 

文革時代の下放政策を経験したフランス在住中国人映画監督が、自分の経験を織り込みながらユーモラスに描く青春小説。フランス語で書かれたものらしい。

主人公は医師の息子で、友人の羅(ルオ・機転の利くはしこい少年))は歯科医師の息子である。エリート階級ということで再教育のため辺鄙な地方で過酷な農作業に従事させられている。しかしそこは若さというもので、逆境にへこたれながら押しつぶされることはない。持参した目覚まし時計は村民にとっては見たことのない文明の利器であり、針を動かすことで労働時間をごまかしたりしている。

同じ境遇にある友人メガネが、禁書である翻訳小説を持参していることをかぎつけた二人は、あの手この手でこれをかすめ取ろうとし、まずはバルザックを手に入れると、むさぼるように読んでいく。本を自由に読めない社会はまっぴらご免だし、本を読むことの喜びのあふれる場面だ。

主人公と羅の暮らす隣村には仕立て屋がおり、この娘(小裁縫)は評判の美人である。二人とも小裁縫に入れあげるが、羅はバルザックの小説を上手に語って聞かせることで、小裁縫をあっさり手に入れてしまう。だから主人公ががっかりするかと思えばさにあらず、羅のいない間、村の若者から小裁縫をしっかり守るのである。

そして最終場面、バルザックの小説に感化された小裁縫は・・・、という感じでなんとも小気味よく面白切なく終わっている。

ロマン・ロランアレクサンドル・デュマの作品などにも言及されているが、自由に本が読めない環境ではこれらの書はまさに宝物とという感じがした。