本・花・鳥(ほん・か・どり)

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少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹 

主人公七竈の母親川村優奈はごく平凡で善良な女性教師だったが、そういう風に育てられたと思える自分を疎み、「辻斬りのように男遊びがしたい」と考えてしまう。「なかなか燃えない七竈の木は七度竈にくべられて良い炭になる」ということを示唆された優奈は、それならと七人の男と関係を持ち、そのうちの誰かの子供として生まれてきたのが少女七竈である。

川村優奈の独白による導入部の後、
「わたし、川村七竈十七歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった。
 母がいんらんだと美しく生まれるものだとばかげた仮説を唱えたのは親友の雪風だが、しかし遺憾ながらそれは当たらずともいえども遠からずなのである。」
と続く物語のスタートやタイトルから、超絶的な美少女に可哀想な大人が翻弄される筋立てかと思ったがさにあらず、美少女に生まれついたがための苦労や、いんらんな母親を持ってしまったことの苦悩などを経て、孤独で繊細で傷つきやすい少女が成長していく青春小説だった。
 
七竈の唯一の友人雪風もやはり孤独な美少年で、どちらも鉄道マニアである。成長するにつれて容貌の似通ってきた二人はどうやら異母きょうだいだったようだが、それぞれが自分の分身のような間柄で、二人の成長がやがて二人を強制的に分けてしまうところが苦く切ない。

疎ましい母親との関係を整理しながら大人になっていく少女七竈の凛々しく切ない成長が本書の読みどころ。七竈の理解者である女性が「女の人生ってのはね、母をゆるす、ゆるさないの長い旅なのさ。ある瞬間はゆるせる気がする。ある瞬間は、まだまだゆるせない気がする。大人の女たちは、だいたい、そうさ。」という台詞に本書が集約されているかな、なんて思う。そういえば昨今は「母との確執物」が流行りだなぁ。

母と娘と成長の物語というとアン・ブラッシェアーズの「トラベリング・パンツ」シリーズを思い出すが、あれほど理想的な感じではなく、もっとドロドロしているのがいかにも日本的で魅力的かもと思う。美少年雪風をしたい、嫉妬がらみに七竈にまとわりつく後輩緒方みすずとの会話が楽しい。