本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

田村はまだか/朝倉かすみ 

札幌のスナックで小学校クラス会の三次会が行われており、40才になった同級生五人が未だ来ない田村を待っている。

田村は風変わりな小学生だった。男にだらしない母親を持ち、貧しく、控えめに律儀に生きているが、ここぞという時の存在感はあって、ニヒルに生きている女子の心の壁を壊してしまったりする。そして、中学卒業後、苦労しながら実直に幸せを掴んだ田村に会うのを皆が楽しみにしており、深夜に何度も「田村はまだか」と呟くのである。

男三人、女二人の同級生たちは、40才にもなると老いを感じ始め、世間の垢が身について、その事情も心の独白として語られている。

生保業界で有能に働き、生保レディをまとめることで女性の扱いにも長けていてもてるのに安直に女性に触れるのは嫌だという独身男(妙に自意識過剰で、自分の下品な独白に赤面したり、更に自分の独白の一人称を「ぼく」「おれ」「私」など言い換えて想像したりする)。

遙かに年下の生徒に惹かれたことを引きずっている私立男子校の養護教諭(保健室の先生)。

同級生(現在もスナックで同席している男)との不倫で離婚したブライダルサロン担当者など、それぞれ人生に疲れ、他人には皮肉な視線を送りつつ、幾ばくかの純情を残しているところがリアル(夜空ノムコウをしみじみ歌っている)。世間の垢にまみれた自分の純な部分を思い出させてくれる触媒が田村なのだ。

客の名言をノートに書き止めるのを趣味にしているマスターもまた不倫の果てに仕事も家庭も失ったくたびれ中年男で(部下との情事がすぐに部下の口から漏れてしまい、すべてを失うが、「もっちりしやがって」などとつぶやきながら悔やんでいるのである(笑))、話を聞いているうちに田村に会うのを楽しみにし始めている。

果たして田村は現れるのか?人生に疲れ始めた元小学生中年男女の友情と小ずるさと純情がない交ぜになって、気持ちの良い読後感。