本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

空色メモリ/越谷オサム

主人公の桶井陸はデブコンプレックスを持つ高2である。友人との会話から日々瑣末な出来事までを「空色メモリ(USBメモリがブルーだからという単純な理由)」と題して記録し続けている陸は、陽性キャラで頭はそこそこに良さげでややシニカルで自意識過剰で、しかしデブで交際を断られたことがトラウマになっている、なかなか複雑なデブでだ(笑)。

文芸部に出入りしているものの公式には入部しておらず、部長の河本博士(陸の友人。あだなはハカセ)が一人で頑張っている。要するにデブとメガネの引っ込み思案のイケてない二人組だ。たが、そこに女子の新入部員がやってきて、ハカセの心は浮き立つ。ひっそりとおとなしめでクラスで浮いているらしい野村さんは事情ありげで、ハカセとしては放っておけないのであるが、野村さんはバスケ部の超大物新人、新谷と浅からぬ仲のようであり、ハカセのヤキモキすることしきりなのだった。

バスケの技術に秀で、かっこよく、性格は男らしい新谷にはすでに親衛隊ができているが、陸はその中の一人、宮原サキと何となく友人になる。新谷に群がる友人たちを白眼視し「親衛隊は離れたところでワーキャー言っているのが正しい」と考えているサキは直情的でにぎやかで正義感が強い。当初サキを苦手としていた陸だが、野村さんの靴喪失事件、そして「空色メモリ」盗難事件が発生し(内容が暴露されたら一大事だ)、文芸部は否が応でも共闘せざるを得なくなるのだった。

昔懐かしい「明朗学園小説」に少し現代風青少年心理を加味してややスリリング。陸にしてもハカセにしても、イケてない高校生だった自分からするとリアリティがあり、いかにも等身大の高校生という感じで共感できる。空色メモリ盗難に関わるあたりが気持ち悪いが、それも今日的ということかもしれない。