本・花・鳥(ほん・か・どり)

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赤朽葉家の伝説/桜庭一樹

赤朽葉家は古代よりたたら製鉄に携わり、文明開化後は近代製鉄を導入して、鳥取の僻村紅緑村に君臨してきた大家(たいけ)である。その赤朽葉家の盛衰を女三代を通してコミカルに描き、併せて戦後の世相史と青春を描いた大作。

紅緑村に時折現れる山の民(サンカ)の娘が井戸の脇に捨てられていたのを、製鉄業の職工である多田夫妻が引き取って育てるが、これこそが後に赤朽葉家の千里眼奥様となる万葉である。真っ黒な長い髪と大柄な体を持つ万葉は、赤朽葉家の大奥様タツによって嫁入りを決められるが、山野を蹂躙してきた渡来人の赤朽葉一族に山の娘を迎え入れることによって土着の怨霊を鎮めたいと考えたかららしい。

出自が普通と異なるからと言って虐げられるわけでもなく、若奥様として赤朽葉家に馴染んだ万葉だが、最初の子の出産を通して子供の未来を見てしまう。その後も何人か子供が生まれるが、泪、毛鞠、鞄、孤独などという不可思議な名をつけていったのはすべてタツで、またそれぞれの運命を暗示してもいる。第一部は戦後から高度成長期あたりまでを万葉を通して描いている。伝奇的風味もあり、大変に面白い。

第二部は娘毛鞠の青春である。生まれた時から反抗的でパワフルな赤ん坊だった毛鞠は、ヤンキー伝説が跋扈する80年代、中学生の頃には立派な不良で、レディース製鉄天使を結成し、高校生で中国地方を制圧してしまったような跳ねっ返りだ。紅緑村を爆走する毛鞠の青春は痛快だが、15でヤンキーを卒業し、優等生として生きていくことを決めた親友蝶子との別れが切ない。後に少女漫画家に転身した毛鞠は、大河少女漫画「あいあん天使!」を大ヒットさせることに。

そして毛鞠の娘瞳子は、前二代ほどぶっ飛んではおらず、バブル崩壊後の時代を淡々と生きているが、「自分は人を殺した」という万葉の言葉の謎をとくことによって、新たな時代の到来を告げている感じ。最後のミステリー的謎解きは不必要だったかもとも思うが・・・。

生と死とエロスと血が全編の基調になっているような、エネルギッシュで猥雑でコミカルな家族史小説である。戯画化されて描かれてあることで、悲惨な場面が多いわりに陰惨ではなく、エロティックなの場面もどこか滑稽だ。読んでいてワクワクし、思わず力が湧いてくるような大力作。