本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青春・ユーモア・恋愛・その他現代小説

やんごとなき読者/アラン・ベネット 

英女王陛下が活字中毒者になっちゃったら、という設定のユーモア翻訳小説。バッキンガム宮殿へやってきている移動図書館に偶然に遭遇した女王は、借りなくては悪いかなと言う義務感から自室へ本を持ち帰る。ひとつの趣味に偏って没頭してはならないという不…

つむじ風食堂の夜/吉田篤弘

主人公が引っ越してきた街の四つ辻にある、「つむじ風食堂」に集う風変わりな善人たちのエピソードを淡々と重ねた連作短編集。派手なことは大して起こらないが、二重空間移動装置(実は万歩計)を売る帽子屋とか、夢見好きな果物屋若店主とか、人工降雨の研…

自転車冒険記/竹内真

快作「自転車少年記」の主人公の一人である昇平の息子北斗が本作の主役。小学六年生の北斗は、クリスマスのプレゼントに一人で大阪までツーリングすることを許可して欲しいと切り出す。全行程を数日に分けると、一日あたり(100km)が宇宙までの距離に…

銀輪に花束を/斉藤純

北東北を舞台にした自転車掌編小説集という感じだろうか。、第一部は主人公「彼」の自転車についての思いや、年の離れた友人Y氏についてや、音楽に関するウンチクなどを淡々と綴っていて、特に派手なストーリー展開もない。二部、三部も、多少主人公が変わる…

エデン/近藤史恵

自転車ロードレースでアシストの立場を貫く白石誓(しらいしちかう)を主人公とした「サクリファイス」に続くシリーズ第二弾である。結果ばかりを求められる陸上競技から自転車に転向した誓(愛称はチカ)は、己を捨て石としてエースの優勝を補佐するアシス…

青年のための読書クラブ/桜庭一樹 

文庫化(新潮文庫)にて再掲。 良家の子女が通う聖マリアナ女学校の読書クラブの事件を100年のスパンでミステリアスに描いた学園小説。生徒会(家柄の良さを誇る政治的な集まり)、演劇部(美貌)という二大エリートを筆頭にしたヒエラルキーの中で、読書ク…

恋文の技術/森見登美彦

修士論文の研究のため、京都の大学の研究室から能登の実験所にやってきた守田一郎は、恋文の技術を磨くために文通武者修行と称してめったやたらと同時並行の文通をし始める。相手は恋に悩むマシマロのごとき親友だったり、研究室を支配する女帝大塚緋紗子女…

はぐれ鷹/熊谷達也

自然を愛する内向的で気弱な青年杉浦岳央は、伝統を守る奥羽の鷹匠に弟子入りし、日々辛い修行の日々を送っているが、偏屈で頑固で厳しい師匠の名誉欲に疑問を覚えるようになり、単独での修行を決意する。ひとり山中で鷹を飼い、鷹匠としてのノウハウを会得…

ワーホリ任侠伝/ヴァシイ章絵

第1回 小説現代長編新人賞受賞作。出版社のコピーでは「普通のOLが踏み出した、愛と仁義のワーキングホリデー。」となっており、ちょっとたがの外れた若い女性がワーキングホリデー先で痛快な活躍をする、という先入観があったが、更にぶっ飛んでいる小説だ…

それからはスープのことばかり考えて暮らした/吉田篤弘

クラフト・エヴィング商會という名前は何となく知っていたが、吉田篤弘は知らず、本カフェに参加することがなければ未だ知らなかった作家だと思う。風変わりな善人たちのやり取りが楽しく、ハートウォーミングで美味しい物語だ。仕事を辞めて、私鉄沿線の小…

ぼくとペダルと始まりの旅/ロン・マクラーティ

でぶでぶの自堕落中年男が子供の頃の愛用自転車で走り出す「奇跡の自転車」が改題され、新潮文庫に入ったので再掲。 ロード・アイランド州のイースト・プロビデンスに暮らすスミシー・エイド(43才・126kg)は、昼は単純作業に従事し、夜はビールとジ…

まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん

言わずと知れたベストセラー兼直木賞受賞作。直木賞受賞で話題になった当時、何となく「地方都市の便利屋が遭遇するトラブルを面白おかしく描いた人情話」という印象を受けた。それもある点では間違っていないが、登場人物たちが大きな闇を抱えていて苦悶す…

渋谷に里帰り/山本幸久

食品卸会社で特に目立たず営業職を続ける峰崎稔32歳は、営業一課のホープ坂丘女史が寿退社することになったため、後任として二課から異動する。坂丘女史は渋谷近辺が担当区域だが、地価高騰時に親が渋谷の家土地を処分し地方に引っ込んだ稔には渋谷は鬼門で…

カイシャデイズ/山本幸久

数十人規模の内装リフォーム会社ココスペースで働く個性豊かな社員たちを楽しく描いたユーモア小説である。出色は何と言っても営業チーフ(係長クラス)の高柳で、強面の容貌、ひとに教わるのも教えるのも下手と公言する協調性のなさ、自分勝手、セクハラま…

カウハウス/小路幸也

主人公の畔木(くろき)は大企業で将来を嘱望されている若手社員だったが、不祥事を起こして鎌倉にある社有豪邸の管理人に飛ばされる。同棲している恋人を伴って赴任すると、なぜか我が物顔でテニスをしているひょうきんなじいさんと女子中学生がいて、邸宅…

ガール・ミーツ・ガール/誉田哲也

傲慢で生意気で傍若無人で奔放で一本気で純情で、強烈なオーラを放つ柏木夏美がバンド仲間の死の謎を追いかけた「疾風ガール」の続編である。頼りなくも誠実なマネージャー宮原の猛烈なアタックによって巨乳専門のフェイス・プロモーションでのデビューが決…

凸凹デイズ/山本幸久

弱小デザイン事務所を舞台にデザイナーたちの哀歓をコミカルに描いた、著者お得意のユーモアお仕事小説である。ウラハラナミは、エロ本のレイアウト、スーパーのチラシ、包装紙などを手がけるデザイン事務所凹組(才能はあるのにうだつのあがらない二人の巨…

山背郷/熊谷達也

潜水夫、マタギ、河川水運の船頭、漁師など、大自然を畏怖し、崇敬し、寄り添い、或いは抗って生きる人々を描いた短編集で、自然の詩情と共に民俗や習俗も巧みに取り込んでおり、非常に読ませる。直木賞受賞作「邂逅の森」のプロトタイプも収められている。…

九つの、物語/橋本紡 

主人公のゆきなは、親が外遊中のため古い家に一人で暮らす女子大生である。本好きだった兄の遺品である蔵書を引っ張り出しては読んでおり、それぞれの章に「蒲団/田山花袋」「山椒魚/井伏鱒二」「コネティカットのひょこひょこおじさん/サリンジャー」な…

やがて目覚めない朝が来る/大島真寿美

かつては大女優であり、シングルマザーとなって数年後、突如引退してしまった蕗さん(矍鑠、飄々とした老女)を孫娘有加の目から綴った小説である。蕗さんは有加の父方の祖母だが、有加の両親が離婚した後、母親と有加は何故か蕗さんと同居している。有加の…

【新釈】走れメロス 他四篇/森見登美彦

近代日本文学の古典を独特のノリで翻案換骨奪胎した快作である。物語の登場人物は少しずつ重なり合うが、それぞれに独立した短編になっていて、作風もそれぞれに違う。「百物語」「桜の森の満開の下」のように幻想的でシリアスな作品もあるし、ギャグとドタ…

当マイクロフォン/三田完

大河ドラマや鬼平犯科帳など、名調子のナレーションで一世を風靡したNHKアナウンサー中西龍(なかにしりょう)の評伝小説である。三田完はNHK出身の作家だが、小説内では二村淳という芸能番組スタッフと中西の世代を超えた交流(清遊仲間とも言えそう…

日本橋バビロン/小林信彦

著者の生家のあった両国(現在の東日本橋が本来の両国で、現在の両国は東両国であったらしい)と、生家である老舗和菓子屋の衰亡を語っている。私小説と言うほどドロドロしていないので叙事詩と呼ばれるのが嬉しいと書いていたが、まぁやはり私小説であろう…

武士道セブンティーン/誉田哲也 

武士道シックスティーン続編。剣道を、武士道を基とする武道であるとの覚悟を思い始めた女子高校生剣士二人の成長を爽やかに描いた剣道青春小説。宮本武蔵を心の師とする磯山香織は、己さえ勝てばよいというがむしゃらな剣道から、人を思いやり、謙虚であり…

あぽやん/新野剛志

あぽやんとは、空港でツアー客に発券したり、トラブルの処理をしたり、お見送りをしたりする担当者である(あぽとはairportの略)。ツアー客と現場で関わる重要な職務という感じがするが、旅行業界ではの第一線ではなく閑職扱いされているらしい。 本作は、…

走ル/羽田圭介 

高校の陸上部に所属する主人公が自転車に乗ってひたすら北へ向かう物語。物置に近所のお兄さんのお下がりのロードバイク(ビアンキ=イタリアの自転車ブランド)があることを思い出した主人公は、子供の頃には乗れなかったビアンキの意外な走りに驚き、八王…

ビールボーイズ/竹内真

室蘭郊外の新山市(架空の地名であろう)の悪ガキたちが、ビールを結束の絆として大人となっていく成長物語。ガキ大将の正吉、参謀格の広治郎、弱虫だが人の好い勇は、父親の勤めるビール会社の都合で憧れの同級生茜が転校していったのを恨み、復讐と称して…

フラミンゴの家/伊藤たかみ

疎遠になっていた親子が久しぶりに同居することになって生ずるさまざまな葛藤をユーモラスに描いた家族小説。関西の地方都市のスナック経営者である片瀬正人は、6年前に別れた元妻(やり手のレストラン経営者)が手術を受けるため、娘の晶をしばらく預かる…

あぽやん/新野剛志 

あぽやんとは、空港でツアー客に発券したり、トラブルの処理をしたり、お見送りをしたりする業務である(あぽとはairportの略)。ツアー客と現場で関わる重要な職務という感じがするが、本書では旅行業界の第一線ではなく、閑職扱いされているようである。上…

東京物語/奥田英朗 

昭和34年生まれの田村久雄が名古屋から上京し浪人生活を送り初めた1978年から、バブル期のコピーライターとし活躍している1989年までのある一日を取り出し、恋や成長を描いた連作青春小説。 自分とほぼ同年代の作者が関わってきた時代背景にはとて…