本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

センセイの鞄/川上弘美

ベストセラーになった当時も読んでいたが、本カフェ(本好きのためのSNS)読書会の課題図書になったので再読。概ね記憶通りの印象だが、忘れている箇所もあって、新鮮な気持ちで読了した。

語り手のツキコさんは40手前くらいの独身で、居酒屋で高校時代の国語教師と再会する。特に印象に残っていた教師というわけではなく、最初は飲み友達として始まった交際だが、やがて恋心に発展し、30才以上も年齢の離れたセンセイに対しやきもきした気持ちを抱くことに。そんな気持ちの揺れ動きを、居酒屋と酒の肴と季節の移ろいを背景に淡々と描いている。

何しろどちらも古風で風流な感じで、花鳥風月を楽しみつつ、飄々とした逢瀬を重ねている。実直で折り目正しく、しかしやや剽軽でひねくれた物言いをするセンセイ(やや意地の悪さも垣間見せる)のキャラがなかなか楽しい。

しかし、死が身近になっているセンセイであるから、二人の恋にはいつも影がつきまとっている感じがする。それが物語をより情緒的にしているのかもしれない。

センセイには出奔した後に事故死した前妻がいるが、その奇矯な振る舞いや墓を訪ねたりするあたりに異界感が漂い、ただの恋愛小説とは違って不気味さを感じさせるのがいかにも川上弘美的か。

おしゃれなバーに居心地の悪さを感じ、孤独な夜にはほろほろと泣いてセンセイを探し求めるフツーの人ツキコさんに共感するが、この浮世離れした二人だから成り立った恋愛でもあるかなぁ。