本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

池袋シネマ青春譜/森達也

ドキュメンタリー監督、ノンフィクションライターとして活躍する著者が自分の青春時代を顧みて綴った青春私小説

映画好きが高じ、立教大学で映画製作サークルに籍を置く主人公克巳は、役者で身を立てることを望みつつ、実は実社会に出ることを恐れてもいるようなモラトリアム学生である。「太陽にほえろ!」に登場する若手刑事に文学座出身者が数人いたからという理由で文学座研究所を受験する程度のモチベーションだ。

恋人の堕胎手術を待ちながら来し方を回想するという構成で、何とも自意識過剰な青臭い青年臭を振りまいているのだが、後書きによれば、当時の自分のメモや雑記から再構成していると言うことで、この青臭さはそれ故かと思う。

石井聰亙とかディレクターズカンパニーとか長谷川和彦とか「太陽を盗んだ男」の撮影とかとかシティボーイズの旗揚げ公演とか、70年代後半の若者文化の活きの良い空気が伝わってきて懐かしい。著者は5年くらい上になるので、猥雑で騒然とした池袋の雰囲気を大人として味わったんだろう。文芸座くらいには行ったが、当時の中高生としては、駅前を離れるとディープな感じのする町だった。

それにしても森達也が役者志望だったとはなぁ・・・。別に顔がいいだけが役者の条件ではないが、どうも森達也の風貌を考えると、演技者としてオーラは薄いような気がする。著者が大ファンだったらしい原田芳雄も取り立てて二枚目ではないが、それでもあふれ出るオーラはあったからなぁ。

後書きで、幾つになってもこの当時の心情(「少年の心を持ち続ける」と言ったような意味合いではなく、成長できないというニュアンス)のままだというようなことを書いていたが、それは良く分かる。自分も立派な大人の年齢なのに気持ちは十代のままで一向に成長していない(笑)。