本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ランチのアッコちゃん/柚木麻子

話題になった小説が数ヶ月前にNHKでドラマ化されたので原作を読んでみた。

しがない派遣OLの三千子はノーと言えない性格で、それを元に男にふられ、うじうじして弁当も食べられずにいると、部長の黒川敦子から「弁当と自分のランチを交換しよう」と持ちかけられる。

当然ながらノーと言えないので嫌々応じた三千子は、部長のランチを食べ歩く中で食の大事さを知り再生していくのだが、食事は人生を豊かにするということがしみじみ伝わってくるユーモア小説である。黒川敦子の真の姿などなかなかに面白いが、もう少し謎めいた部分で興味を引っ張って欲しかったかなとも思う。

四篇あるうちの二篇はこの二人が主な登場人物だが、あとの二篇には脇役として登場、最終篇に至ってはテレビ画面に映るだけだが、この最終篇が良かった。

日々すり切れそうな思いで過酷な仕事をしている(つもりの)企業内ベンチャーの社長は、使い物にならずに社から追い出したゆとり世代の女性社員が悪びれることもなく現れ、ビルの屋上でビヤガーデンを開くからとあっけらかんとPRしてきたことに唖然。敵意と疎ましさを抱いてしまうが、超ポジティブで天真爛漫な彼女に徐々に感化されていくのである。なかなかに幸福な読後感。