文庫化にて再掲。
主人公の相馬いとは母を早くに亡くし、きつい津軽方言を使う祖母に育てられたために自身も訛りが強く、それがコンプレックスとなっている超引っ込み思案の高一女子だが、何を血迷ったか、コミュニケーション力を高めるためにメイド喫茶でのアルバイトを決意する(メイド服にも憧れていた)。
しかし、標準語での「お帰りなさいませ、ご主人様」が言えず、本人はパニックになるやら周りはハラハラドキドキするやら、何とも抱腹絶倒のメイドが誕生するのだった(笑)。
いとの祖母ハツエは津軽三味線の名手で、幼い頃から祖母について習ってきたいともそれなりの腕前になっているが、大股を開いて演奏している自分の写真を見て唖然、以後、三味線から遠ざかり祖母には寂しい日々。ヴァン・ヘイレンの大ファンで、かの曲を三味線で弾いてしまうすげー祖母さんだが、津軽もヴァン・ヘイレンの出身地カリフォルニアも西海岸であることが共通点だそうだ(このことは後に切ない伏線となってくる)。
6才年齢のサバを読んでいるおっかない先輩メイドとか、この店(メイドカフェ)に関してだけはインチキをしていないといういかがわしさ満開のオーナーとか、実務肌の店長とか、脇役キャラもなかなか良い。それぞれに一癖ありげだが、実際にはみなメイドカフェを愛しているお人好しなのだ。
表紙絵でもメイドが三味線を抱えているが、いとが三味線を弾くシーンが圧巻。この作家は音楽に造詣が深いのか、文章で音楽を表現する力がある(北上次郎は「階段途中のビッグ・ノイズ」の書評で、知らない曲なのに頭にメロディー聞こえてくると評した)。
いとの成長や、他者への思いやりや、怒濤の展開など、読みどころ満載の青春小説。読後感のよろしいこと間違いなし。