本・花・鳥(ほん・か・どり)

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時の“風”に吹かれて/梶尾真治

カジシンお家芸の時間物、ドタバタ、ホラー、ショートショートなど、さまざまな作品が詰め込まれた短篇集。あちこちに発表した物を再編集したらしく、作風がバラバラだが、だからこそこの作家の多才さが浮かび上がった気がする。以下、印象に残った何編か。

「時の“風”に吹かれて」著者お得意の時間物。亡き叔父が描き続けた美しい女性に憧れた主人公は、タイムマシンを発明した友人に頼み込み、火災で亡くなった彼女を助けようとして…。なかなか味な結末である。

「時縛の人」あらゆるエネルギーを使えるタイムマシンの発明者が、戦闘中のアッツ島に赴いた時、エネルギー不足に陥るが、戦死者の残留思念エネルギーを燃料とする事で脱出を図る。しかし、時に縛られた残留思念から脱出したい霊たちが過剰にあふれかえってタイムマシンは爆発、発明者本人が時縛霊となってしまう(笑)。

「月下の決闘」冴えない中年サラリーマンが降って湧いた幸運のように婚約した美しい女性は超絶的な格闘技・裏バレーからの脱け舞だった!。闇エアロビ、裏バレーなども登場するバカバカしいショートショート

「わが愛しの口裂け女」瀕死の父親が息子に語る母との出会いと別れ。口裂け女だったことを父に知られて母は出て行ってしまうが、それでも互いに愛していたことが瀕死の父親から息子に語られる。感傷的な幕切れの、何とバカバカしくも美しく切ないこと・・・。名人芸だなぁ。口裂け女をネタにしつつ、雪女のイメージも感じられる。