本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

2006-01-01から1年間の記事一覧

柳生雨月抄/荒山徹 

霊能があり、さらに宗家柳生宗矩を凌ぐほどの腕前でもある、京都の陰陽師家に養子に入った柳生友景を主人公に、朝鮮の妖術師との戦いをおどろおどろしく描いた時代伝奇。友景は以前の荒山作品にも登場しているが、その時には十代で美貌でサイキックで剣の達…

獄中記 地獄篇/ジェフリー・アーチャー

(本人の言うところによれば)どうでもいいような微罪なのに判事の悪意によって二年間の獄中生活を余儀なくされた著者が、収監された初日からを詳細に綴った獄中日記。さすが、転んでもただでは起きない(笑)。終始一貫して自分は嵌められたのだと主張し、…

花はさくら木/辻原登

朝日夕刊に連載されていた時代小説である。時の老中・田沼意次は、江戸に、大坂に負けないような経済機能を持たせたいと考えている。そして、朝廷に莫大な献金をし、鴻池とタッグを組んで巨利を得ている豪商北風組を潰そうと画策し、配下を送り込むのである…

安徳天皇漂海記/宇月原晴明

壇ノ浦の波の下に沈んだ安徳天皇は、神器である真床追衾(まとこおうふすま)に守られ眠り続けているという設定で、著者お得意の耽美的なホラーを展開させた時代伝奇小説である。第一部は、鎌倉幕府三代将軍実朝の側近が語る、安徳と実朝の因縁。幼くして海…

「悪所」の民俗誌  色町・芝居町のトポロジー/沖浦和光

二大悪所、色町と芝居町の成り立ちを、お得意の周縁・被差別・河原者などを交えて説き起こしている。この手の「道々の者」的な話は大好きなのだが、評論家の小谷野敦は、遊女に聖性を求めるのはファンタジーであると断じているようだ。芝居の祖である出雲の…

4TEEN/石田衣良 

語り手のテツロー、頭が切れて皮肉屋のジュン、気の良い太っちょのダイ、富裕な両親を持ち、ウェルナー症候群(早老症)のナオトの4人を主人公に、身の回りで起こるやや異常な事件と、変わらない友情を描いた中学生小説。大人が読書対象になっていると思わ…

青雲遙かに 大内俊助の生涯/佐藤雅美

幕末の江戸、昌平坂学問所で学問(儒教)を修めるために仙台藩から上京した大内俊助は、最初は向学の志に燃えていたが、江戸に馴染むに連れて生活が自堕落になり、朱子学の考え方にも疑問を持つようになる。ほとんどの留学生は、身を立てるための手段として…

江戸の繁盛しぐさ  こうして江戸っ子になった/越川禮子 

最近、朝日夕刊のマリオン欄に江戸のマナー「江戸しぐさ」に関するコラムが出ており、興味があって読んでみた。著者はマーケティングか何かの会社の経営者らしいが、「江戸の良さを見なおす会」の芝三光(しば・みつあきら)氏に教えを請い、江戸しぐさの詳…

エンド・ゲーム/恩田陸

特異な能力を持つが故に権力に利用されることを恐れ、ひっそりと暮らしてきた常野一族を描く常野物語シリーズの第三弾。しかし第一部の「光の帝国」とはだいぶ趣が変わっていて、今回はインナースペースを舞台にしたサイコホラーの感触。敵である「あれ」と…

金春屋ゴメス/西條 奈加

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。近未来の北関東の一画に、国として独立したバーチャルな江戸があるという設定で、江戸から日本へ脱出した父親の求めに応じ、幼い頃の記憶を取り戻すために江戸入りした青年・辰次郎を主人公にしている。江戸は元…

竹千代を盗め/岩井三四二 

桶狭間で今川が織田に大敗し、松平元康(後の徳川家康)が今川から離反し始めた頃、甲賀の忍・伴家一族に、元康麾下の酒井雅楽頭が、今川の人質になっている元康の妻子を救い出してくれという依頼が来る。頭領の与七郎は、喜び勇んでこの仕事を引き受けるが…

落下する緑/田中啓文

ジャズミュージシャンのコンビが音楽の現場で起きるさまざまな謎を解く連作ミステリー。光文社の文芸オーディションで鮎川哲也の選に入ったデビュー作を連作化したもので、編者側からギャグもグロもダジャレも禁止という命が入っていたらしいが、その割りに…

下妻物語/嶽本野ばら 

「ヤンキーちゃんとロリータちゃん」という副題が付いている。映画化もされているし、有名な作品だろう。二人の高校生の交流を中心にした青春小説で、「だって、だって、仕方ないではありませんか」というようなお嬢様風の語り口が妙に気持ち悪良く(笑)、…

江戸売り声百景/宮田章司

寄席で江戸の売り声を持ち芸としている著者が、江戸の売り声や浅草について語った聞き書きである。昭和40年代までは流して歩く振り売りの売り声が聞かれたそうだが、そういう生の体験があればこそ、芸としても生きてくるのだろう。啖呵売、泣き売のような…

悪いやつら/東郷隆

謀将宇喜多直家という副題が付いている。児島高徳の末裔だという名家の祖父は、同僚・島村貫阿弥に誅され、流浪の末父親は放蕩者として死に、自分は牛飼いの身分で愚人として馬鹿にされている八郎(直家)だが、仇敵の目に止まらぬよう、復讐の野望を胸に秘…

青き剣舞/花家圭太郎

佐竹藩の冷飯たちに降りかかった運命の転変を描く時代小説。玄二郎、参徹、継之進は、学問所でも道場でも三羽烏と呼ばれる親友であり、参徹は剣術で、継之進は学問で身を立てる夢に燃えている。のほほんとしていて山歩きを好む玄二郎は、未だ己の道を描こう…

早春賦/山田正紀

戦国の気風が残る江戸初期、八王子千人同心を差配してきた大久保長安の死後、千人同心の間に持ち上がった騒動を、17才の少年たちを中心に描いた時代青春小説。少年から青年への成長を、八王子の特産になった養蚕の齢に例え、上手い効果を上げている。半士…

幸福ロケット/山本幸久

「笑う招き猫」「はなうた日和」等、軽妙でペーソスのあるユーモア小説が持ち味の著者だが、ポプラ社から出ているし、児童文学だろうか。10才の山田香な子には、不満が三つあった。誕生日がクリスマス・イブであること、山田という軽い名字、両親が仲が良…

褐色の文豪/佐藤賢一

「黒い悪魔」に続き、デュマ家の血筋を描いた歴史評伝小説。ヴィレル・コトレの片田舎で長じた二代目アレクサンドル・デュマは、無邪気で無責任で陽気な快男子で、亡命貴族の子息である友人の影響で文学に目覚め、パリに出て劇作家を目指す。生来が人好きの…

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ/滝本竜彦

第五回角川学園小説大賞受賞作だそうである。親の転勤により下宿屋で一人暮らしをしているやや自堕落な高校生・山本が、不死身のチェーンソー男と死闘を繰り広げる女子高生・雪絵に遭遇する。退屈に苛まれていた山本は戦う女子高生の姿に感動し、「共に戦う…

お師匠さまは魔物!/ロバート・アスプリン

ふざけて幼稚なタイトル、漫画のような表紙からやや敬遠していたが、面白いという評判もあるので手を出してみた。ドタバタファンタジーである。うだつの上がらない魔法使いの弟子スキーヴ(泥棒に役立てようと目論んで魔術を学んでいる)に、師匠ガルキンが…

わくらば日記/朱川湊人

不思議な能力を持つ姉と過ごした昭和30年代の下町の日々を、年老いた妹が回想して語るノスタルジック・ファンタジー。妙に上品な女子学生風の語り口は「リセット/北村薫」を思わせる。活発だった主人公ワッコの姉・鈴音は病弱な美少女で、気持ちも優しく…

ドミノ/恩田陸

東京駅を舞台に、和菓子の老舗「どらや」の紙袋を取り違えたことから起こる騒動を描くスラップスティックなサスペンス。アイディアは映画「おかしなおかしな大追跡」だろうが、もっとシニカルだ。 爆弾を仕掛ける過激派、句友とのオフ会を楽しみにしている実…

仲蔵狂乱/松井今朝子

凄まじくも超絶に面白かった歌舞伎芸道時代小説。長屋の孤児が、長唄と踊りの師匠夫婦のもとに養子として貰われ、歌舞伎役者として大成する人生を描いている。時代小説大賞受賞作で、歌舞伎芸道小説は苦手な分野かなと敬遠していたが、読んでみたら先鋭的に…

おまけのこ/畠中恵 

回船問屋長崎屋の病弱な若旦那・一太郎を主人公に、妖との奇妙な事件を綴るユーモア時代ファンタジーシリーズ第4弾。情緒のある逸品が揃っている。「こわい」出生が定かでない、嫌われ者の妖・狐者異(こわい)が長崎屋に現れ、自分の頼み事を聞いてくれた…

カポネ/佐藤賢一

西洋史を舞台にチャンバラ小説を描く佐藤賢一が、何故か伝説のギャングアル・カポネを採り上げた。前半は、才覚と度胸で成り上がっていくカポネの半生、後半はアンタッチャブルのエリオット・ネスの視点から描かれている。貧しいイタリア移民の子供アルフォ…

湯島の白梅

所用でお茶の水へ行くついでに梅の名所の湯島天神へ。未だ五分〜七分咲きくらいで残念。「探梅」「観梅」という季語がある。 「探梅」は、俳句の方ではつぼみが固いうちに梅の風情を楽しみに行くことであるが、本来の意味は、山に入って野生の梅を探すことで…

ぼくのキャノン/池上永一

沖縄の風土や伝承をテーマにしてユーモアファンタジーを描く池上永一の作品が好きだ。「ぼくのキャノン」は当初タイトルからカメラエッセイかと思ってしまったが、今までの作品同様、やはり楽しく切ないファンタジーだった。本の雑誌の今年のベスト10にも…

無事、これ名馬/宇江佐真理

「頭、拙者を男にして下さい」。は組の頭・吉蔵のもとへ武家の子供・太郎左右衛門が弟子入り志願してくる。臆病者で覇気がない己を恥じてのことらしい。最初は面食らった吉蔵一家だが、子供の一途さが気に入り、一家で可愛がるように・・・。火消しの家族と…

啖呵こそ、わが稼業/語り坂田春夫 聞き書き塩野米松

香具師(テキ屋)の親分の聞き書きインタビュー。テキ屋、香具師というとお祭りの屋台というイメージがあるが、行商、見せ物、興業、縁起物の露店、占い易者と、さまざまな商売を包含していることが分かる。インチキな商品を巧みな口上で売りさばいたり、タ…