本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

東京バンドワゴン/小路幸也

東京の下町で古本屋を営む4世代8人の大家族を舞台に、ややミステリー的な興味をからめながら涙と笑いの人情ドラマが展開される。書評でもホームドラマの雰囲気と書かれているが、本編にホームドラマへの献辞がある。物語を語るのはすでに亡くなっているおばあさんの幽霊だが、さしずめ京塚昌子だろうか。

この一家、79才に店主は絵に描いたような頑固者、60才になる長男は「LOVEだねぇ」「LOVEじゃないねぇ」が口癖の、非常識だか慈愛のあるロケンローラー、その娘はシングルマザー、ロケンローラーが愛人に生ませた子供・青も引き取っているし、なかなか訳ありの家庭ではあるが、それぞれに仲良くやっており、微笑ましい。

古本屋に幼い子が百科事典を二冊持ち込んでは下校時に持って帰るのはどういう訳か、青(ハンサムでプレーボーイらしく見えるが、根は誠実)の押しかけ女房の隠された事情、老人ホームから消えた女性の行方など、ほんのわずかな謎がハートウォーミングな人情小説の中に混ざり込んでいる構造は、少し雰囲気は違うが加納朋子のミステリーを思わせる。度重なる偶然によるハッピーエンドは都合が良すぎるような気もするが、この幸福な読後感のためには目をつぶろう(笑)。

シングルマザー親娘が出生を巡って喧嘩した後、孫娘に「おまえのぉ、その可愛い顔もすらっとした身体もきれいな心も、すべてが藍子(母)と、花陽(娘)の見えないお父さんの二人のLOVEでできているのさぁ。LOVEこそすべてだねぇ」というロケンローラーのせりふが特に印象に残る。印象としては内田裕也的だが、もっと良い人そうだ(笑)。