本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

女信長/佐藤賢一

織田信長は実は女であったという設定の架空歴史小説。のっけから斎藤道三との情交場面が描かれていたりする(笑)。

父親織田信秀に見込まれ、信長として家を継いだ御長は、女の考え方で世に大平をもたらそうと画策する。長い戦乱の世は、男たちが動乱を楽しんでいるからだと喝破しているのだ。信長の事績を丹念に辿りながら、晩年の信長の狂気に、女性ならではの整合性を持たせている感じだろうか。女信長が駆け抜けた半生が痛快だ。

弟・信行に付いて謀反を起こした柴田権六は体でたらし込むが、女体におびえる権六が笑える。正室である道三の娘・帰蝶とは友情で結ばれているが、男勝りの御長とぶりっこの帰蝶のコンビは、そのまま少女漫画にでも出てきそうだ。

男を演じることに疲れ、或いは男の論理にうちひしがれそうになりながらも、己に自信を持って果敢に戦う御長に声援を送りたい。

佐藤賢一西洋史修士課程まで行った作家だが、そもそも「傭兵ピエール」「双頭の鷲」など、日本の戦国小説そっくりな西洋時代小説を書いてきたのだから、たとえ日本史を扱ってもその表現に違和感はない。それにしてもデュマ親子を描き、カポネを描き、更に新作ではアメリカの近未来を描いている。実に目まぐるしく動く作家だなぁ。