本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

殺生石/富樫倫太郎

幕末の蝦夷を舞台に、魔物の力を得ようとする怪人たちと、これに対する陰陽師蝦夷政府の面々等の戦いを描く、時代ファンタジー

フランスから江戸幕府に派遣された士官に化けているサンジェルマン伯爵は、2800年を生き続ける魔人であり、日本にソロモンの王国を再興しようとしている。そして、そのために殺生石に封じられた黄金九尾の狐を呼び覚まそうとしているのである。

かつて玉藻前として鳥羽天皇に取り憑いた狐は陰陽師の安倍泰成に退治され、泰成は蝦夷の地でこれを封じ続けているが、狐(実はドラゴン)の力を求めるサンジェルマン一味が徐々に肉薄してくる。そして蝦夷の地において、魔人と、これを潰そうとする者たちの戦いが丁々発止と展開されるのであった。

カリオストロ男爵を子分とし、怪奇な術を使うサンジェルマンは、フリーメーソンの地位を利用していて、本のキャッチフレーズに謳っている伝奇はこのあたりに由来するのかもしれない。しかし伝奇と言うには、魔人ぶりとフリーメーソンが一致しない。どちらかに重点を置けば良かったのにと思う。

伝法な好漢・土方歳三榎本武揚が指揮する開陽丸に人生を賭けて蝦夷に渡った少年たちの友情、和人に奴隷として搾取されるアイヌの純愛など、読みどころも多いが、伝奇ファンタジーとしてはやや荒削りだろうか。面白かったが、もうすこし緻密さが欲しかったような気がする。