本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

獄中物

獄中記というのはどうも癖になるようで、追記のように5冊ほども読んでいるだろうか。普通の人の目には明らかにならない閉鎖的な世界の、特異な経験を経てきた人間たちばかりなのだから、興味深いことはこの上ないが、そう言っては失礼か。



刑務所の王/井口俊英
大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件で服役した著者が、拘置所内で知り合った伝説の犯罪者について記した評伝。ふとしたことで人生を誤って収監された後、全国の刑務所内に張り巡らされた秘密結社の権力者となっていく主人公が痛快。




LONESOME隼人/郷隼人
アメリカで犯罪を犯し、終身刑を受けている懲役囚の歌文集。
この人は朝日歌壇の常連で、短歌を時折目にするが、刑務所暮らしの悲哀や事件や望郷の思いを壮絶な諧謔と抒情で綴っって印象的である。
大坂朝日に連載されたエッセイが併録されているが、猫や小鳥など動物との交流、刑務所の庭に咲く野の花、ルームメートとなった囚友、日本食を差し入れてくれた親切な看守、刑務所暮らしのコツ、白米を炊いてしまう発明、食事に出たトマトから種を採り育ててしまった話など、身近な事物を情緒たっぷりに描ける筆力は大したものだと思い。これだけの文章を書ける人が何故重罪を犯したのか・・・。

短歌は下記のウェブサイトでご覧になれます。
http://www.mt-non.cside.com/hayato/index.html



囚人同盟 / デニス リーマン
こちらは獄中ピカレスクロマン。この著者も終身刑の受刑者らしい。
一人の風変わりな囚人によって獄内の雰囲気が変わり始め、ついに不正をしている刑務所長を追い詰めていくという痛快な物語。




塀の中の懲りない面々/安倍譲二
ベストセラーになったユーモア獄中エッセイ。この人、デビュー当時は特異な経歴が面白く、同じような内容の著作を何冊も出していたが、ネタが切れたのか、後が続かなくなったような。




同じように極道作家の異名を取る浅田次郎は、「極道放浪記」「勇気凛々ルリの色」などの爆笑犯罪スレスレエッセイも面白かったが、創作ができるのが強みなのだろうなぁ。何度かの逮捕歴はあるものの、釈放されたり無罪判決だったりで、ついに刑務所入りはなかったそうだ。傍目から見ると箔が付きそうな気がするが、入らないにこしたことはないそうで・・・。