本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

嘆きのサイレン/茅田砂胡

美貌で豪快でエネルギッシュで傲慢で有能な戦士であるクーア財閥令嬢と、ヘラヘラしていて侠気があって正義漢でこちらもメチャクチャ強い宇宙海賊ケリーの活躍を描いた「スカーレット・ウィザード」、仮想中世ヨーロッパ風世界を舞台にした戦国時代ファンタジーデルフィニア戦記」の登場人物(超常能力を持つ、浮き世離れしたあぶない少年たち(笑))を統合させた「暁の天使たち」に続くSFシリーズ「クラッシュ・ブレイズ」の第一弾。

先代の連邦主席マヌエル一世から宇宙戦艦の遭難が多発する宙域を探ってくれないかと非公式に頼まれて出発したクーア怪獣夫婦。ケリーの愛機パラス・アテナの感応頭脳“クレージー・ダイアン(速く飛ぶためなら人命無視も厭わないアブナイ人工頭脳(笑))”までが「歌が聞こえるわ」と言い出しどうやら脳を侵された模様で、自分たちまで遭難しかかる羽目になる。

クレージー・ダイアンのような力を持ちながらそれを統御する知恵がなく、悪意が暴走する感応頭脳の仕業だったが、更には人間まで洗脳するような力を持っているため、これを放置しておくことは出来ず、対抗するための力(歌)を黒い天使ルゥに借りることになる。破滅と豊饒と、両方の力を持つルゥの歌の魅力が作中の白眉だろう。

昨今、ミステリーやホラーで純粋な悪意がよくモチーフになるが、これを未来SFに置き換えると「嘆きのサイレン」になるだろうか。テンポ良く、適当に笑わせ、「仲間がいない孤独」などをちょっと考えさせるといういつものパターンだ。

茅田砂胡は中高生向けライトノベルの作家だが、ストーリーテラーとして並々ならぬものを持っている。「デルフィニア戦記」は、ファンタジーと言いながらスーパーナチュラルな要素はほとんどなく、真っ当な架空西洋時代小説だった。この人には、いつか真っ向勝負の戦国時代小説を書いても欲しいものである。