本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

怒濤のごとく(上・下)/白石一郎

鄭成功を主人公とする海洋歴史小説。「海覇王/荒俣宏」の鄭成功が、あまりにも狂気じみて直情径行な造形だったので、もう少し爽快感のある海の王の物語が読みたかったのだが、これも似たようなものだった。

平戸での幼少時代、海賊・海商から明国の総兵官に招撫された父親・鄭芝竜に呼ばれて中国へ渡っての成長、父親と袂を分かち、頭でっかちな愛国心から自ら破滅の道を歩んでいく終盤まで、あまり快男児の印象はないのである。

機を見るに敏で、功利心の強い父親は、明国商人の日本での取り仕切り役である日本甲螺の地位をかすめ取り、ついに明国の軍閥として招かれるまでになるが、この野心的な男の方がよほど爽快である。まぁ、若い頃の仲間まで討伐してしまうあたりはあまり頂けないが、その分だけ、修羅場を乗りきり溌剌としていたあたりはとても魅力的。

片や成功は、父親の功名心から科挙を受けるべく猛勉強させられた秀才で、頭でっかちな理想家に成長しており、ひたすら抗清復明の思想に没頭している。明が滅びるのはある意味当然であったかもしれないのに、ここまで勤皇を貫くのも周囲にとっては迷惑だろうが、これも日本人的気質(ジープンキー)故と書かれている。何故このような男が日本でヒーロー扱いされたのかと思うが、忠義・忠誠が武士道日本の倫理観に適ったのだろうか。


白石一郎は海に生きる快男児を書かせたら一番の作家だったが、彼をしても鄭成功は魅力的には書けなかったらしい(笑)。