本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

黄金の華/火坂雅志 

徳川幕府草創期に、貨幣鋳造を司る金座銀座を差配した後藤庄三郎を主人公とする歴史小説。この人については、武士なのか商人なのか職人なのか今ひとつ良く分からなかっただけに興味深く読んだ。

庄三郎の父親は斎藤道三に滅ぼされた長井家の武士で、浪人した後、京で天正大判を鋳造する後藤家に身を寄せ、庄三郎は算勘に長けていたことから後藤家の手代として天正大判製作に携わっている。

女を知らない庄三郎は、大原の雑居寝と呼ばれる奇習に参加し、可憐な美女と契るが、彼女は豪商角倉了以の三女おたあさまで、秀次の側室に上げられるのが嫌さにこの奇習に参加したのである。

これが世上の噂になり、庄三郎を京に置いておけなくなった後藤家の主は、家康に命じられ、嫌々ながら話を受けていた江戸での貨幣鋳造に体よく追い払ってしまうが、ここから庄三郎の運命が開けてくるから面白い。
良貨を滞りなく流通させることが経済を安定させ、民を豊かにすると考えていた庄三郎の思いは家康の思惑と一致し、貨幣鋳造と共に経済官僚としても重用されることになるのだ。

ここぞというところでは大博打を打って家康の天下取りに協力し、巨大な利権が絡む権力を身につけるようになっていった金銀改役庄三郎だが、身を慎み、決して不正蓄財などを考えなかった生涯が語られている。このあたり、黄金の男・大久保長安が対比されて描かれ、傲慢、奢侈、権力志向の長安との確執が物語を盛り上げている。

後藤本家としては家康の重用を受けるようになった庄三郎を自家の人間にしなければならず、驕慢な出戻り娘を押しつけられたり、家康からは子をはらんだを若い娘を下げ渡されたり、あまり女運が良いとは言えなかったようだが最後に救いがある。

貨幣の発行と流通を司る金銀改役は、現在の日銀総裁と同じだったのではないかという著者の後書きだが、だからこそ身を清廉に保った庄三郎の気概が生きる。何とかファンドに投資していた総裁に聞かせたいようなものだ(笑)。