本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

うそうそ/畠中恵

回船問屋と薬種屋を営む大店長崎屋の病弱な若旦那一太郎と、愉快な妖(あやかし)たちのやりとりが楽しい時代ファンタジーしゃばけシリーズ」の五作目は久々の長編である。しかも今回若旦那は旅に出るらしい。どんな珍道中になるものやら・・・(笑)。

湯治に箱根へと出かけた若旦那は、お付きの兄や(これも妖)は消えるわ、侍に攫われるわ、カラス天狗に殺されそうになるわ、とんだトラブル続きの目に…。そして、半神半人の少女・お比女ちゃんと巡り逢う。

かつて村人に人柱にされそうになり、父神が怒りを爆発させて村を滅ぼしてしまったことがトラウマになっているのお比女ちゃん(可憐だ!)は、一人では何も出来ない自分を責めており、そのあたりが一太郎と同じである。

お家大事で他者の都合など考えない馬鹿侍が箱根を滅ぼしかねない事態に、お比女ちゃんがやっと己の使命を見出すというストーリーは、おそらく自分探しというものだろう。面白くはあったが、こういうテーマはこのシリーズにはどうなんだろうか。自分探しというなら、一太郎も少しは丈夫になって欲しいものである(笑)。

このシリーズでは、可憐で無邪気な小鬼の鳴家(やなり)が何と言っても可愛い。今回は、付喪神(100年を経た道具が妖になった物)の印籠から抜け出した獅子の背に乗って駆け出したりしており、楽しさは健在だ。

このシリーズ、実はラジオドラマで先に知ったものである。NHK-FM青春アドベンチャーという番組で第一作「しゃばけ」二作目「ぬしさまへ」が4年ほど前にラジオドラマ化されたことがあるのだが、子供の声をデジタル処理した鳴家の声が可愛らしく、一編にファンになってしまったのだ。最近、再放送していたが、再放送があると言うことは続編もドラマ化されるのかもと期待している。