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マチルダ  ボクシング・カンガルーの冒険/ポール・ギャリコ 

天才的ボクサーのカンガルーを巡る、愛すべき愚かな人間たちを綴ったコメディーである。

三流芸人をナイトクラブに斡旋している芸能エージェントのソロモン・ビムスタイン(ビミー)のもとに、マチルダという名のボクシングをするカンガルーを連れた元英国チャンピオンが現れる。芸人としてやとってくれという訳だ。田舎回りをするサーカスに、口八丁でマチルダを売りつけたビミーだが、マチルダが実はかなりの天才的なボクサーだったことが徐々に明らかになる。

そして、マフィアの後ろ盾を持つミドル級チャンピンのリー・ドカティが酔っぱらってサーカスのリングに上がり、マチルダに簡単にノックアウトされる。たまたまそれを見ていたのが辛辣で公正なスポーツコラムニストのデューク・パークハーストで、バークハーストが面白おかしく書き立ててマチルダこそチャンピオンだと主張したものだから、ドカティ側は再戦せざるを得なくなってくるのだった。

善良でボクシングが大好きなだけのカンガルーに、愚かな善人達の思惑が絡んで、コンゲーム小説のような味わいである。ハーシーのチョコレートをねだるマチルダが何とも言えず可愛いなぁ(笑)。

ビミーの婚約者ハンナは、ビミーが誠実かどうかが不安でたまらないのだが、みんな適度に誠実で適度に狡猾だったという感じか。マフィアの大物アンクル・ノノもいい味を出している。片や陽気なイタリア系移民のスポーツ好きエリート、片や冷酷なボスの二面性を持っていて、子分の前では陽気さは見せられないのである。そうして彼もマチルダの虜になってしまうのだ。

愚かで愛すべき人間たちと善良なカンガルーが織りなす、寓話めいたコメディーだった。

ポール・ギャリコという作家については、70年代くらいに若い女性に人気のあったファンタジー作家といううイメージだったが、元来がスポーツ記者だったということで、この手の世界はおなじみだったらしい。

リンク先のウィキペディアの記事で思い出したが、パニック映画の傑作「ポセイドン・アドベンチャー」の原作もこの人だった。テレビ放映された時に見たことがあるが、なかなかスリリングな映画だったと思う。あのようなスペクタクルな世界も描ける人なんだなぁ・・・。